恋と笑いは紙一重２【芸人短編集】

君が君だとわかっていても 【和牛 まなみちゃん】 ページ43

『まなみちゃんは賢志郎が演じるただのネタに出てくるだけの女の子やって知ってる。……でも、まなみちゃんが賢志郎やって分かってても……俺まなみちゃんが好きやっ……。』






こんな恋をしてまった俺が憎たらしくて、ぐっと唇を噛む。口の端から血が出そうになって、賢志郎は慌てて俺の背中をさすった。





『ごめんっ……。好きになってまってごめん……っ。』


川「……なぁ、何で謝るん…？なぁって!!顔上げてって!!」






賢志郎にぐいっと顔を持ち上げられて、目線が上がる。するといきなり、目の前が真っ暗な闇に包まれた。






段々と離れていく賢志郎の顔、その瞳には大粒の涙が溜まっていて、零れないように、溢れないように。瞬きをしないでいる。


今のは……いったい。




唇に触れた何かが、その現状を悟っていて、俺は賢志郎を見つめた。賢志郎は眉をきっと釣り上げて、俺に叫んだ。





川「あたしやって好きやもん!!!」






賢志郎の言葉に、目を丸くする。その言葉に、口調に、戸惑いを隠せない俺を置いて、どんどんその口から言葉が出てくる。





川「あたしやってAくんの事好きやもん……っ。気付いたらあたしも…まなみとしてAくんの事好きになってたんよ？やのにAくんだけやって思ってもらったら困るわ!!あたしやって…好きやのに。」





賢志郎の堪えきれなくなった涙がどっと溢れ出し、その服にしみをつくっていく。




もし、今のが賢志郎の。
まなみちゃんとしての本音なら。




そう思った瞬間、君への好きが溢れ出して、俺は再びその小さな体に抱き着いた。





前とは違って、ちゃんとした俺として。








『好きや。』


川「……あたしも。」








まなみちゃんは俺の肩に顔をあてた。






君が君だとわかっていても、
僕は君を好きになってしまったんだ。

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