70:モヤモヤ ページ20
「ねぇ、行きたくないんですけど、ほんと」
はぁ、とため息をつくと隣の阿部くんが「まぁまぁそう言わずに」なんて肩をポンポンと叩かれた。
うちの部署と隣の部署の交流会と称した飲み会が開催される知らせが社内メールで届いたのは1週間前のこと。
そのメールが来てから毎日毎日行きたくないって言って、そのたびに阿部くんに宥められた。
そして、今日がその日なわけだけど。
「やぁだぁぁぁ！帰る！！」
「まだ言ってるの？いいから行くよ」
最初は優しく宥めてくれていた阿部くんも日を追うごとに扱いが雑になっていく。
阿部くんの笑顔の合間に見える真顔が怖い。
別に飲み会が嫌なわけじゃない。
むしろどんな飲み会でもある程度は楽しめる人間だし。
でも今回は京本と同じ空間にいなきゃいけないのが嫌すぎる。
仕事なら仕事の話をすればいいけど、飲み会となればそうもいかないし。
そんな気不味い中で飲むお酒なんて楽しくも何にもない。
阿部くんに引きづられるように、会場のお店へ。
店内を見渡せば、もう何人かは先に到着しているみたいで、その中に京本の姿もあった。
とりあえず最初は部署ごとに分かれて座るらしい。
京本と出来るだけ距離を取ろう、あわよくば阿部くんの隣がいい、なんて思ってたのに阿部くんが京本の隣に座るもんだから割と大きめのため息がまたひとつ。
仕方なしに部長と課長の隣に座ると「お前がここに来るなんて珍しいな」なんて意外と歓迎された。
そうこうしていると、人も集まったところで会が始まる。
「かんぱーい」なんて声とともにグラスがぶつかる音と、喋る声が店内に響いた。
まだ序盤も序盤なのに部長と課長は楽しそう。
私はそんな2人に適当に相槌を打ちつつ、ビールを飲んだり、料理を摘んだり。
なんとなく。
京本がいるほうに視線が向かう。
阿部くんとその隣の女の子と何やら楽しそうに話している姿を見たら、少しだけお腹の奥のほうがモヤモヤした。
モヤモヤ？なんに対しての？
モヤモヤする意味なんかなんにもないはずなのに。
その正体の分からないモヤモヤを打ち消すように私はビールを一気に体に流し込んだ。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
