【庭球】平穏に過ごしたいだけ

袖触れ合うも他生の縁(side 柳) ページ42

_

最近八神の様子がおかしい。いや、おかしいと言うと語弊がある。正しくは態度が変わったとでも言うべきか。

元々親交が深いかといえばそこまでではないにしろ、他のクラスメイトよりは親しい間柄だと思っていた。だが、ある日を境に彼女の態度に異変が生じた。


「おはよー柳君！」
「おはよう村木」


クラスメイトの村木は、八神と親しく、俺もそれなりに交流がある。勉強を教えて以来、3人で話す事も増え、何なら今のようにその中の2人で話す事もあるくらいだ。

暫くして八神も教室に入ってきた。鞄を置いて席に着こうとする仕草を見たところ、今日は図書室を開ける当番ではないようだ。村木の挨拶に続き、俺も八神に挨拶をしたが、


「おはよう」
「…おはよー」


ご覧のとおり、謎の間を置かれてしまう。まるで何か戸惑っているのか、はたまた最初は無視を決め込もうとしていたのか。

その後、八神から風紀委員の挨拶運動の話題になり、村木は八神の席の横の通路にしゃがみ込んだ。…邪魔になるぞ。にしても、何故そんな事を聞いてきたのだろうか。風紀委員の誰かに用事でもあったのだろうか。


「風紀委員なら50分に活動が終わり、それぞれの教室へ解散する。誰かに用があるなら、朝礼の後の方がいいぞ」
「…はーい」
「……」


八神の問いに答え、相槌が返ってきたが、八神の視線は俺を向いていなかった。敢えてその態度なのか、俺が何かしたのか、全く身に覚えがない。ただ今の距離感は少々厄介…というよりやりにくい。今日は木曜日、借りていた本を返す日だ。きっと昼休みに彼女は図書室にいるだろう。その時に聞けるものなら話を聞こう。しっかり答えてくれる確率は低いが、それでも、


「(袖触れ合うも他生の縁、か…)」


彼女の態度が変わったあの日、自分で口にした言葉を心の中で呟く。折角の縁だ、こんな形で無駄にしてしまうのは勿体ない。らしくないなと自嘲気味に笑いつつ、朝のHRに臨んだ。



(皆と知り合いとわかったあの日から)
(お前と俺達に縁を感じて止まない)

クラスメイトとして→←レベルの低いミッション

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す