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Episode014 ページ15

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「なのに、Aの才能を潰すつもりですか?」
「……娘と話し合いますので。今日のところはお引き取り願えますか?」


さっき太刀川さん、私のこと名前で呼んで……。そんな太刀川さんの発言のあと、母はしばらく黙り込んで、その言葉を捻り出した。対して太刀川さんも「そうさせてもらいます」とそれに乗ったので、ここで話は終わりのようだ。……ああ、太刀川さんが帰ったあとで、母に何て言われるだろう。客人に言えない不満のはけ口になるのは私なので、数分後のことを考えると少し頭が痛かった。


「あと、そいつ多分副作用(サイドエフェクト)持ってますよ」
「「サイドエフェクト?」」


こつ、こつと太刀川さんが二歩ほど歩いてぴたりと止まり、そのままそう告げる。聞いたこともない単語が発せられて、私と母は同時にその単語をリピートした。


「それもボーダーの素質の一つですよ。じゃあ」
「あ、あの!」


それだけ言い残して、太刀川さんはまた止めていた足を動かす。そんな彼を私が呼び止めると、今度はくいっと首だけこちらに向けた。


「ありがとうございました!」


訊いて、太刀川さんはふっと笑った。





「どうやって知り合ったの」
「……まあ、ネイバーから助けてもらった、かな」


太刀川さんが帰って、家の中に入るとまず母にそう訊かれた。勝手に警戒区域に入ったとは言えず、私は太刀川さんと出会った経緯を抽象的に伝える。まあ嘘ではない。「そう」と母は呟いて、部屋は静まり返った。


「私がボーダーに反対な理由はね、もちろんこれ以上成績が下がってほしくないからだけど……それだけじゃない」


しばらく沈黙が続いて、そう母が言った。現時点で成績が芳しくないのは完全に私のせいなので”これ以上”という単語に頭が痛くなったが、今まで勉強以外に理由など訊いたことなかったので、驚いて母を見つめた。


「危険だから。戦うってことは、簡単なことじゃないでしょう?どんな危険なことに巻き込まれるか分からない」
「お母さん……」


普段から厳しいし、やりたいことなんて全然やらせてくれないけれど、この人はちゃんと親だった。私の身を案じて、反対していたのだ。


「でも、娘のことをあんなに評価してくれる人がいて、親が嬉しくない訳ないでしょ?」


母が、優しく微笑んだ。同じ気持ちだったんだ、私と。私は今まで誰かに特別褒められることも、嫌われることも無く生きてきた。そんな私が初めて他人に肯定されて、嬉しかったのは私だけではなかったのだ。こうして、私はようやく入隊の許可を得たのだった。

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亜桜(プロフ) - 百瀬さん» ご指摘ありがとうございます!固定夢主の名前を変換しそこねていたようで……大変失礼しました;;気付いたところから修正していきます。 (2023年1月5日 0時) (レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
百瀬 - 途中途中で名前が"紗雪"になってますよ〜! (2023年1月3日 12時) (レス) @page47 id: 6aa4d6dc2c (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 柊那さん» ありがとうございます(´;ω;`)修正多めのマイペース更新で申し訳ないですが頑張ります!! (2018年5月18日 13時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
柊那 - 面白かったです!続き楽しみてしてます。更新頑張ってください( -`ω-)b (2018年5月18日 2時) (レス) id: 6886eff87c (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 藤見日和さん» わざわざ有り難うございます!!わがままな作者で申し訳ないです(汗)必ず戻ってきます…! (2016年11月24日 20時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:亜桜 | 作成日時:2015年8月5日 16時

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