ぎこちない同居 ページ42
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「かわいい……とっても素敵な造形してる……」
加賀美は惚れ惚れと見つめていた。
ストレートな褒め言葉にめっぽう弱い彼女はそれだけで照れている。半崎は今すぐにでも逃げしたい気持ちに駆られていた。
荒船隊オペレーターの加賀美倫は筋金入りの小鍛冶Aのファンの1人だ。生駒隊の生駒や、諏訪隊の笹森も彼女のファンという話はあるが、加賀美はその中でも人一倍彼女に対しての熱量が凄かった。
「そうだ、Aちゃんよければ今から隊室に来ない?見せたいものがあるの」
彼女は一度も荒船隊の隊室に入ったことはない。というのも隊の隊長である荒船が彼女を入れることを頑なに拒否したからだ。理由は火を見るよりも明らか、彼女の熱烈なファンである加賀美によって作成された彼女の非公式等身大パネルが置いてあるからだった。
荒船が加賀美に何度パネルの撤去を求めてもこれだけら譲れないと何度か口論したが、熱のあるオタクの口回しに負かされた荒船はしぶしぶ置いてあっても気にならない隅に布をかけて置くことで許しを出したのだ。それでも彼女に見られるリスクを考えた荒船はずっと彼女を隊室に招かなかったのだ。しかし今、理由を知らない彼女のことを、パネルがバレることなんて別に気にした事の無い加賀美が隊室に誘い込んでいるのだ。
「いいんですか?私荒船先輩に何故か拒否られてるんですけど」
「いいわよ。私の隊室でもあるし」
加賀美はそう言い彼女の手を引く。
半崎はせめて荒船が隊室にいないことを切に願った。
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「穂刈いるか」
しかし神は無情だな、と半崎は思わざるを得なかった。彼女は早々に加賀美によって見せられた己の等身大パネルに加えて秘密裏に作成された絵画を見て絶句していた最中だった。言わば地獄そのものだ。
「荒船先輩」
「ちが、これは加賀美が」
「荒船くんもお世話になってたんだから文句言わせないよ」
「うわぁ……」
「半崎おめェ知ってんだろふざけんな」
「ジョークじゃないすか……」
その後己のキャパを超えてそのままぶっ倒れた彼女を戻ってきた穂刈が受け止めてそのまま太刀川隊に送り届けた件が、高校生内で話のネタとしてしばし流行った。
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■ 加賀美
単純にAの顔が好きという理由だけで本人に内緒で等身大パネルを制作し美術系オペレーター。等身大パネルは一時期弟子の接し方に悩んでた荒船がよくお世話になった。ボーダー内でもガチのオタクとして名を馳せていることを本人は知らない
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作者名:40 | 作者ホームページ:
作成日時:2020年12月3日 0時