よし、笑おうか【二口堅治】

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【二口side】

それ以来、直接的な交流はなかったから、きっとAって奴は俺の事を覚えてないと思う。

でも俺の場合、そうはいかない。

名前しか知らないのに、自分で引くくらい、そいつを気にするようになった。

まぁ、そんなこんなで時は過ぎ



「よーし、休憩ー」



その日もいつも通りの部活。

先輩の声で部員がぞろぞろとコートから出て来て水分補給などを始める。

その中で、体育館の下の小窓に人影が写るのが見えた。

部活中、つまりは放課後。

そんな時間に人が来るなんて珍しい。

ましてや、体育館なんて、部活関係者以外めったに立ち寄らない。

誰かなって気になって、純粋にただそれだけを確認するためにドアから顔を覗かせた。



(……えっ)



そこにいたのは、例の女子。

思わず声を出しそうになった。

それを必死に食い止め、バレないようにその子を見る。

Aって奴はこっちに気付くこともなく、歩いて来て古い鏡の前で立ち止まった。

そして、笑った(・・・)。

でも、あの日の笑顔とは別物で。

今にも泣き出しそうな、いかにも作り笑い。

見てるこっちが辛いようなそれ。

……ほら、俺って素直だからさ？



「うっわ……ひでー顔っ」



スッと口からそんな言葉が出てしまった。

なんかこー……もう少し気遣う丁寧な言葉とか言えたらいいんだけど、まぁ所詮俺だし？

でも、本当にひでー顔。

その時は、あまり面識なかったけど

こいつが、それを笑顔だと思っているなら

んなもん全然ちげーよって、思いっきり言いたいって思った。

だから



「……そう？」



そんな風に笑う(誤魔化す)んじゃねーよ。

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