2 ページ3
図書館中央部。大きな本棚に隠れて少女は自分の父親と、その上司である男の会話や行動を眺めていた。先ほどの放送音声はあの男のものだったのだろうか? 不審者のように二人を観察していると、後ろから猫の鳴き声が聞こえた。
「! わ、わぁびっくりした!」
少女は思わず大声で叫びそうになる。猫はそんな少女をつまらなさそうな目で見ると、中央部のほうへ歩き出した。
しばらくすると、少女の父親と上司の男と猫は図書館の奥へ向かった。同じくして少女もそれについていく。
そして三人が奥の部屋に入るのを見届けると少女はその扉の隙間からなにが起きているのかを確認し始めた。そこはよくある倉庫のようだった。なんだ普通の倉庫じゃないかと思った時だった。倉庫は眩い光に包まれ、少女は思わず尻餅をつく。
扉の隙間から漏れる強い光が収まったと思うと少女は再び中を確認した。するとそこには先ほどまでいなかったであろう存在が倉庫の中心に立ち尽くしていた。黒髪のよく似合う青年で、服装は普段街中では見ないような奇妙な格好をしていた。右手には弓を持ち、左手には一冊の本を抱えている。青年は無愛想な感じで三人に挨拶をする。徳田 秋声。どこかで聞いたことがあるような、ないような名前だった。
しばらくすると徳田 秋声と言う青年は一冊の黒ずんだ本の中に吸い込まれた。比喩ではない、物理的に吸い込まれたのだ。有碍書がどうだとかいう話をしていた気がするが、少女には全くもってわけのわからない話だった。そして少女は覗き見をすることがつまらなくなって、とぼとぼと一人自室へ戻った。
自室へ戻ろうと、別館を移動しているとまた別の男とすれ違った。なんだ、アルケミストと呼ばれる存在は父親だけではなかったのか。少女は愛想よくすれ違った男に挨拶を交わす。すると男は生まれて初めて人間と出会えた! というような表情で少女に歩み寄る。肩にたらんと乗った編み込みの髪が男の歩みによってゆさゆさ動いているのが面白いと少女は思った。
「ちょ、アンタあれか、司書っちゅーのは!」
「違います、多分!」
司書? 少なくとも自分がそんな役割だと言われた覚えはない。少女は首を横に振りながら違うと否定する。男はなあんや、としょんぼり落ち込む。もう少し柔らかい対応の仕方もあったか。少女は男に対して申し訳ないなと思っていると男はまたコロッと顔を変えて少女に話しかけた。
「ワシは織田作之助。お嬢さん、アンタの名前はなんや?」
12人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:逆さ天然水 | 作成日時:2017年7月23日 9時