おいでエリンギ

37、スキャンダル ページ37

連れ立って向かった駅は、フットボールフロンティアの観戦客でごった返していた。

俺たちがホームに着いた途端に電車がきて、ラッキーですねとAが微笑む。大会会場のところでほとんどの人が下車するので、車内はがら空きだ。

席に座ろうとしたら、Aと俺の肘と肘とがぶつかり、
「あ、すみません。」

Aが即座に腕を引っ込める。大袈裟なほどの動きに、俺は一瞬固まった。

ゴールキーパーの腕にうんたらかんたらと言っているが、アホか。それに、そんな理由じゃないことくらいわかる。

不可解さにちょっとムカついた。
もしかして嫌われてるのかとも思ったが、もしそうなら飯に誘うわけがない。ただ単に、身体的接触を許せるほど仲良くないだけだろう。それならしょうがないな。

「そういや、西蔭さんはラーメンの具材だと何が好きですか？」

Aは何事もなかったかのように質問してきて、それに俺はメンマと答える。

細麺だと豚骨が合いますよねーとか、門仲にある魚介系のとこおいしいですよ、とか、Aはラーメンの話になると結構ペラペラ喋った。一家全員ラーメン好きだそうだ。身体に悪いんであんまり食べれませんけど、と残念そうにする。

博多ラーメンが好きだと俺が言うと、博多駅近くのラーメン屋を沢山教えてくる。ラーメンのために福岡なんて行けるか。
それをやんわり言ったら、新宿のお店をオススメしてくれた。

「西蔭さんは、好きな食べ物とかないんですか？」
「いや、特には。」
「あ、そうですか。」
会話が途切れる。

「電車の座席がふわふわだとテンション上がりません？」
「なんだ急に。」

脈絡のなさに戸惑った。Aの話によると、家から学校までの電車は椅子が柔らかいらしい。びっくりするほどどうでも良い。

野坂さんの話が聞きたいと言われ、ひょっとすると彼女は野坂さんのことが好きなのではという疑問が頭に浮かぶ。それでも、やはり俺は野坂さんのことになるといくらでも話せた。

「西蔭さんって、野坂さんのこと大好きですよね。」

と笑顔で言われ、お前が聞きたいと言ったんじゃないか。とにこにこ笑顔にそう返す。

ひょっとしたら、沈黙を避けようと気を使われたのかもしれない。そう気がついたのは、話題が芸能人のスキャンダルについてになってからだった。

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