【鬼滅の刃】花霞に君思ふ【時透無一郎】 (ページ3)

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花弁の章　１ページ3

暗闇の中。
どこからか、荒い息遣いが聞こえる。

鬼のものなのか、それとも対峙している鬼殺隊員のものなのか、区別もつかないほど荒いその呼吸を聞きながら、私は木の陰に隠れて様子をうかがっていた。

この森に鬼が出たとの報告、応援要請が出てから半刻。
いまだに鬼の姿は見かけていないが、気配ははっきりと感じる。十二鬼月には及ばないが、おそらくかなり強い鬼だ。
ここに来るまでに何人もの鬼殺隊員を見たが、どの者もみな、すでに事切れていた。

(無一郎君は……大丈夫だよね)

倒れていたのは階級が下の隊員ばかり。
先に任務に向かっていた柱の彼がやられているはずはない。
そうは思ったけれど、やはり私は心配で胸が張り裂けそうだった。

そして、無一郎君を探しに行こうと足音を消して去ろうとしたその時。

「たっ、たすけてくれえええええ！」

悲痛な断末魔が響き渡り、急いで振り返ると、己の身長の三倍はあるのではないだろうかというような巨体の鬼に片足をつかまれ、宙づりにされている隊士の姿があった。

『確か同期の人だったような気がする……大変、助けなきゃ』

とは言え、私のいる地点から鬼にはかなりの距離がある。
大きさだけが取り柄のあの程度の鬼なら私の剣術でも倒せるだろうが、いかんせん私は脚力が足りていないのだ。
この距離で一気に間合いを詰める手段がない。

『周りは……』

悲鳴を聞いて大勢の隊士が集まってきたが、みんな腰を抜かしているか恐怖に怯んだ顔をしているだけで、とても役に立ちそうになかった。

『仕方ないな……本当はあまり人前で使いたくないんだけど』

私は羽織の袂から一枚の札を取り出すと、人差し指と中指を立て、札に素早く「滅」の一文字を書いた。

刹那、札が光ったかと思うと、次の瞬間にはその札は弓矢に変わっていた。

『この矢を受ければ鬼は刃を受けるよりもずっと苦しむことになるけれど、仕方ないよね。報いを受けなさい』

そう言って私は鬼に向かって矢を放った。

矢はまっすぐに飛んでいき、鬼の喉笛に刺さる。
次の瞬間、まるで朝日を浴びた時のように苦しみ悶える鬼の姿を、私たちは見た。

あまりの苦しさに、掴んでいた隊士の足を放す。

隊士は声にならない悲鳴をあげながらこちらへ走ってきた。

「たっ、助かった……！あ、あんたあれは…！？」

『私の家に古くから伝わる破魔矢です。鬼はあのまま消えます。無事でよかった』

そう言うと、隊士は心底安心したように息を吐いた。