Karte.42 Sweet Valentine’s Day ページ1
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「今日もお疲れ様。甘い物でも食べて、元気出してね！」
「有難うございます、嬉しいです」
今日、何度同じセリフを吐いただろうか。
口々に掛けられるのは、可愛いラッピングの施された小さな紙袋とは不釣り合いな気遣いの言葉で、作られた笑顔を返すも終いには、律の口角から苦笑いが零れ出た。
今の律を見て、「Happy Valentine’s Day♪」とは声かけづらかったのだろう。
同情されても仕方のない現実が、そこにはあった。
内科に転科したと言うのに、
朝から吐血の緊急オペ二番手に駆り出され、入院中の受け持ち患者は急変し、上司が受け持つはずの患者のメンドクサイ(小声)家族対応に追われ、緊急入院を取ることになり、気づけば昼食を食べ損ねたまま定時を迎えてしまう。
今更“昼食”を取る気にもなれず、バレンタインギフトと共に貰った栄養ドリンクを一気飲みして医局に戻ると、
朝から座っていない片付いた医局のデスクの上には、
付箋の貼られたバレンタインギフト(だろう)包みが山のように置かれていた。
湧き上がる溜息をぐっとこらえ、机に俯せていると
見かねた医局秘書が「どうぞ使って下さい」と大きな紙袋を渡してくれる。
頂いたバレンタインギフトを持ち帰る為にと、気をきかせてくれたのだろう。
「有難うございます、助かります」
顔を起こして笑顔を振り絞り、貰った紙袋にそれらを入れていく。
職場に居てはまた面倒事が舞い込んできそうだと、律は手早く荷物を片付けて更衣室に向かった。
毎年の事であるから、荷物が出来る事を予想していなかったわけではない。
よってこの日は、車で通勤していた。バイクだと、この量のギフトを持ち帰れないと分かっていたから。そして、円滑な人間関係を維持するために１か月後、誠意を返せるよう誰からギフトを頂いたのかはしっかりメモに残してある。(昔、美優に仕込まれた。)
多職種連携が重要とされる昨今の医療現場において、一種の行事だとしてもこうして他スタッフから気にかけてもらえるのは、実に有難い事だ。
そう、頭では理解していても 面倒である事には変わりはない。
つい本音が零れてしまったが、職場での頂き物には粗相がない様にと気を使うものだ。
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