＊ Two-faced 5 ＊ (ページ2)

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救急隊の申し送りでは血圧は85/56㎜Hg 脈拍102回/分のショックバイタルだ。
救急車のサイレンの音で駆け付けた睦(ケモナース)がサポートに入り、血管確保のため右側に立つも、その手は大きく震えている。

以前、化学療法中の患者がアナフィラキシーを起こし救急室に降りてきた時、睦は至って冷静に対処している―――だが今回は、明らかに動揺が見て取れる。
患者の顔を見た時の睦の驚いた表情(違和感)を、七汐は見逃さなかった。

七汐は睦に、患者の左側に回って安心できるよう声掛けを誘導し、右腕に点滴ルートを確保する。

採血、モニター装着、腹部検査……
救急医の指示に従い次々に行われる処置に反応できず、睦はただ、患者の手を握り付き添っていた。
患者の全身状態が落ち着き、入院のため病棟へ案内した後
七汐はエレベーターの前で立ちすくむ睦の肩を叩き、声を掛けた―――

「大丈夫だから―――」

と。

救急室管理者である横峰師長の計らいで、睦をカンファレンス室に連れ出した七汐は
両手をぐっと握りしめて下を向いたままの彼を座らせる。
彼の表情からは、血の気が引き、今にも倒れそうである。

テーブルとロッカーがおかれただけの、5畳ほどの小さな部屋で
睦は不随運動する自らの両手を睨んだ。

「僕は……どうして……何も……ッ」
―――手が震えて、大事なルートを取る事さへ出来なかった。
　医師の指示を遂行できなかった。
　櫻さんが、苦しんでいるのに―――僕は、医療者なのに……

「―――何も出来なかったんだ……」

震えた声で、辛うじて紡がれる睦の話に
七汐はじっと耳を傾けた。

彼が、自らの後悔を整理できるように。
その後、きちんと前を向けるように―――。

こうなる事は、何となく、予想が出来ていた。
先日、睦の部屋から真依が分厚い本を抱えて出ていくところに出会った時から。
二人は“特別な関係”なのかと邪推を働かせ、
直後、睦の部屋で”相談された“ あの時から―――。