参拾捌。 ページ39
「もう大丈夫そうだな。……よかった」
『いや、死なないで……!!』
「君なら大丈夫だ。どんなに苦しいことがあろうとも、きっと乗り越えられる」
『きょ、杏寿郎さん』
「……ああ」
『ねぇ、杏寿郎さん』
「……大丈夫だ」
『杏寿郎さんっ!!』
「――A。もう、やめてやれ」
名前を呼ばずにはいられなかった私に声を掛けたのは、なんと伊之助だった。
「これ以上苦しませるんじゃねぇ。寝かせてやれ」
『……!!』
見ると、猪の被り物から溢れ出るほど涙が出ている。皆も悔しくて仕方ないんだ。
『……ごめん』
今何を言おうと、杏寿郎さんには届いていないのかもしれないけど。でも、どうしても伝えたい。
『――ありがとう、杏寿郎さん』
あのとき助けてくれてありがとう。
貴方が助けてくれたから、今私は生きてる。
柱になる前も、なった後も、変わらず優しくしてくれてありがとう。
幸せだった。
出会えてよかった。
『杏寿郎さん――』
柱なのに、辺りを気にせず泣いた。
この時の私は桜柱ではなく、ただの杏寿郎さんの家族だった。
蝶屋敷に運ばれると、しのぶちゃんとアオイ、カナヲは気まずそうに目を逸らした。
「夜桜さん……。煉獄さんのこと、聞きました。本当に残念でしたね」
『うん。……ごめんなさい、守れなくて』
「夜桜さんが気にすることじゃないですよ。とりあえず今は、ご自分の怪我を治すことに集中してください」
……駄目だ。心の中がぐちゃぐちゃして、上手く息ができない。何をするにも体が重くて、苦しい。
誰かに話して楽になってしまいたい。今思っていることも、後悔していることも、全部――。
気付くと、蝶屋敷を飛び出していた。
【無一郎Side】
その知らせが飛び込んできたのは、竹林を歩いていた時だった。
あの煉獄さんが死ぬなんてすごく驚いたし、Aがいたのにそんなことはあり得るのかと耳を疑った。
Aはあんなに可愛いけど、ものすごく強い。本気の時には煉獄さんより強いかもしれない。
Aが気になって仕方なかったけど、兄のような存在を失って悲しくない訳がない。きっと頼るときには向こうから言ってくれるはずだから、今はただ気持ちを落ち着かせた。
結果としてAが僕の屋敷にやって来たのは、その日の午後のことだった。
外は雨が降っていて寒そうだった。戸を叩かれたので開けてみると、びしょ濡れのAが立ち尽くしていた。
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わらび餅 - あおいさん» 本当に何回も、ありがとうございます!すっごく嬉しいです! (2020年3月6日 20時) (レス) id: eec3d5a46f (このIDを非表示/違反報告)
あおい - 題名、変わりましたね!とっても素敵です....!続きがめっちゃ気になります。次の更新も楽しみに待ってます! いつもの長文野郎より。 (2020年3月5日 21時) (レス) id: 4eed4f74a9 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅 - 萌葱なごみさん» えええ……マジですか!?全然出てこないんですけど、もしかしてスマホのスペックが低いんしょうか……。何か他の読み方は知りませんか? (2020年3月1日 20時) (レス) id: eec3d5a46f (このIDを非表示/違反報告)
萌葱なごみ - しまと打って探せば出てきます! (2020年3月1日 18時) (レス) id: be00a3fd43 (このIDを非表示/違反報告)
萌葱なごみ - 嶼ですよ! (2020年3月1日 18時) (レス) id: be00a3fd43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:karin | 作成日時:2020年2月9日 20時