5 ページ5
.
「ダメだよ、ユーハンくん。」
楽しいお話の途中に悪いけど、とまったく悪びれなく割って入った声に安堵する。私にとても誠実な彼らに、不誠実な約束は交わせない。YES以外は閉じ込めるとまで言われてしまえば八方塞がりだ。
「今日は私の日。……だよね？ そういうお話は、君の日にするようにね」
何の日でも、そういう質問はやめて欲しい。喉まで込み上げた言葉を必死に呑み込む。諭されたユーハンは、飄々とした態度で「では、そうさせていただきますね」と踵を返していった。
…次のユーハンの日が怖い。
誰々の日、というのは、担当執事のことだ。今まではこんな制度じゃなかった。いつもは身の回りの世話をその担当執事に任せるというだけのものだったはずが、いつしか『担当執事以外の執事は話してはいけない』というのが暗黙の了解になってしまったと思う。
ユーハンがあっさり帰っていったのも、そのせいだろう。今日はルカスの日だった。
「もう、ユーハンくん以外にも他の子とお話しましたね？ この跡……妬けちゃうなあ。」
指先が触れただけなのに、グリ、と押し付けられたような圧を感じる。首筋…部屋に出る前にラトに付けられた傷だ。隠せない位置に見事に付けられたものだから、誰の目にもあからさまに丸見えなことだろう。
眼光で傷痕が消えそうなくらいの鋭さに、怯んだ足が一歩下がる。ルカスはきっと私がどんな顔をしていても楽しいのだ。「怖がらせてごめんね」なんて言いながら、語尾がいつもより跳ねていた。
「それじゃあ……私の手を取って、主様。」
今日だけじゃなくて一生閉じ込めてしまいたいけれど、鼓膜を伝って脳まで侵食するほどのじっとりと甘い声には、気付かないフリをした。
その日の担当執事は、私を一日好きなようにしていいという誓約でも課せられているのか、ほんとうに自由だ。ただ隣に居てお話するだけの執事もいれば、何をするにもとことん甘やかして世話をする執事もいる。
ルカスは圧倒的に後者だ。
「はい、あーーん……もう、照れないの。いつまでたっても初心だねえ、主様？ 大丈夫、何も恥ずかしいことなんてないんだよ。私は貴方の執事なのだから」
恥ずかしいからやめて、という抵抗をした日は数知れず。そのどれもが見ての通り虚しくもスルーされた。勢いに負けて口を開けば、人間ってほんとうに何も考えなくても生きていけるんだなあ。なんて堕落した考えを生んでしまう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 52人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
