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「あぁ、他でもない貴方の手を汚してしまった。……洗ってください。その汚らわしい赤が貴方の手から消え去るまで、何度でも、何度でも……今、すぐに」
掴まれた腕が痛かった。
玄関ホールに居たのは、また、襲撃犯だろう。人類の敵になってしまった悪魔執事には、頻繁にこうした敵が現れるようになった。
何もそこまでしなくても…と思うかもしれない。でも止めを刺さずに穏便に返そうとした結果、倒れたフリをした伏兵に寝首を掻かれ、そこに居た執事も主も危なかった。なんて事例もある。
それにもう、疲れたのだ。
優しくしても、助けても、いつだって怖がられて石を投げられるのはこちらの方だ。
「ッその、ユーハン、もういいんじゃない…?」
「…お静かに願えますか。私の手がいくら赤に染まろうと、貴方だけは…、貴方だけは何色にも染まるべきはでないのです」
よほど私が血に触れたのが精神に来たらしい。あの後、洗面台に連れて行かれて丁寧に、丁寧に腕まわりと手のひらを撫でるように洗われた。水が冷たい。肌に纏わり付いた要素をすべてそぎ落としてしまいたいという確執を感じた。…どういう感情なの、それは。
きれいな手だと、言われたことがあった。いつだったっけ。初めて頭を撫でてみた時。不慣れな衝撃からかきょとんと気の抜けた顔をして、それからユーハンは目を細めて笑んだ。とてもきれいな手だと言ってくれた。
きゅ、と手を握られる。
「この世界に、貴方にとっての安寧が存在しないのなら……閉じ込めてしまえばいいと、常々思うのです。貴方を汚し、傷付けるだけのこんな世の中ならば」
首輪を想像しているのだろう。ひんやりした指が首回りをつぅ、となぞる。人間の急所である首を支配された私は、確かに、どこにも行けない。何をするにも不自由な私を見て、ユーハンはとても嬉しそうに笑うんだろうなと、そう思った。
「そして、私だけをその瞳に映していてください。」
瞳の色は、恍惚としていて。ユーハンは奥ゆかしく見えてしっかり意志も独占欲も強いタイプだ。首輪も好きだし。……圧が強くて目を逸らせない。
「私はこう見えて嫉妬深い性質ですから、頷いていただけなければ、強引にでも首輪を掛けて閉じ込めてしまうかもしれません。……さぁ、どうなのか、答えていただけますよね」
逃げようにも、固く手を結ばれていて解くことができない。……一見優しく握ってるのに。こういうことも、しょっちゅうだ。
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