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この光景を見るたびに、優しかった彼らが、どうしてこんなに苦しまなければならないのか。そう思って、どうしようもなく胸が叫声を上げる。
本当は、誰よりも守りたかったはずの存在が。
いつも彼らに牙を向くのだ。
だから彼らも、私を傷付ける方法を選んだ。選ばざるを得なかった。
「…お帰りになられていたのですね。気が付かず、申し訳ございません。目を瞑っていてくださいね、すぐに掃除致しますので」
「ユーハン…。」
彼らはもう慣れたのだろう。表情に一片の曇りもなく、淡々としている。ユーハンは元々軍人で、それを見るのも初めての経験ではなかったというのが大きいのだろうけれど。
たかが一般人だった私も、もうとっくに慣れてしまっていた。
「粗大ゴミも増えてきましたね。捨てるスペースも限られていますし、いい加減捨てに向かわなければ…」
とっとと『それ』らを片付けながら、何でもないことのように言ってのける。でも、それは彼らだけが悪いのでは決してないのだと、私は言いたい。
…………粗大ゴミというのは、人間のことだ。冷たく、赤い血を流す。
「あらら? もう…、目を瞑っていて、と申し上げたのに。主様が目に映すほどの価値はございません、こんなものに」
手袋を脱いで、ユーハンは私の目尻をそっと撫でる。いつのまにか、涙が零れ落ちていたようだった。人間として生きていた頃の、正義と誠実を抱いて生きていた彼を急に思い出したのは、どうしてだろう。
「ごめんね。」
また、謝ってしまう。血で濡れた手袋越しに、私たちは手を繋いだ。
「…。」
ユーハンは、私の手が血に汚れることを嫌う。いつまでも私に甘いのだ。ユーハンが知っているような、穢れの知らない一般人の女の子なんて、もう居ないのに。
ここに居るのは、貴方たちを一緒に地獄に道連れにした、悪魔だ。
「私たちは、」
そんな私の憂慮を見抜いたのかユーハンは口を開く。
「人類の存亡と、貴方の存在───……そのどちらかをを天秤に掛けて、貴方を選ぶしか出来なかった、そんな生き物です。初めから」
選んでと言ったのは、私だ。
どちらを選んでも、私は貴方たちの意見を尊重する。ずっと貴方たちを見守っている。
だから、選んで。
その日、悪魔執事は、人類の敵になった。
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