at close range (ページ28)

今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:44,476 hit

love letter 2 【Y】ページ28

Aの置いていった古い人生ゲームを開けると紙幣や株券や駒たちが散乱していて、二つあったはずのサイコロは一つ見当たらなかった。

ちゃんと片付けろっていつも言ってたのに

仕方なく一個だけサイコロを手にして、Aを真似て手の中で揺すってみたけど、放る気にはなれなかった。

" 結婚しよーよ！！ "

" やだよ "

" またダメかーーー "

いつかはって、思ってた。

その"いつか"が、いつになるかはまだ分からなかったけど、その"いつか"って時に、俺の隣にいるのはAだって信じて疑わなかった。

俺の思い描く"いつか"には、必ずAがいたから。

「いいよ…」

いくらか物が減った静かな部屋は、俺の小さな声も悲しいくらい拾ってくれる。

「いいよ」

もう一度だけ呟いた。

今なら素直にそう言えるのに。

キミがいなきゃ

答えることもできないんだな

.

別れの前兆なんて全くなかった。

前日の夜は珍しく俺の帰りが早くて、久しぶりにダイニングで向き合いご飯を食べたし、

お風呂上がりに缶ビールを開けて、ずっと観たいって話してたアニメ映画を一緒に観て、

終盤にさしかかった頃Aが鼻をすするから、ティシュ箱を手渡せば、

「渉と一緒に観れて良かった」って、鼻の頭真っ赤にして笑ってくれた。

それは、ありふれた日常そのものだった。

" ねーわたー、私たち別れよ？ "

次の日の朝、お互い会社に行く準備をしている途中の出来事だった。

＂今日は遅くなるの？ "

そんないつもの軽い声がけのように、突然別れを切り出された。

「やだよ」って、身についた口癖でちゃんとそう言えたはずなのに。

仕事切り上げて急いで帰宅した二人の家に、もうAはいなくなってた。

簡単に俺の前からいなくなった。

俺の未来から、いなくなった。

" 横尾渉くんっ！！！！！！ "

渡り廊下で呼び止められたのは、日に焼けた肌に短い髪の少女。

セーラー服には似合わないガッチリした肩と大きな声で、手渡された可愛げのない茶封筒。

まさか中身がラブレターだなんて、俺じゃなくても分からないよな？

.