at close range (ページ16)

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pure knight 5【S】ページ16

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「何してるの？」

頭上から声をかけると、健ちゃんはゆっくり顔を上げた。

あぁ、良かった、

まだヒゲ面にはなってない…

「遅かったね」

「誰かさんのせいで歩きだからね」

「あげる」

差し出されたのは、薄水色のソーダ水。

私が昔から好きなやつ。

「…ありがと」

「どういたしましてっ」

そう言いながら立ち上がった健ちゃんは、ヒゲこそ無いけれど、なんだか少し大きくなったような、厚みを増したような、そんな気がして。

だいぶ日に焼けた肌が、筋肉の陰影をさらに濃くしていた。

高鳴り続ける私の心臓。

「あー、明日から夏休みかぁー」

大きく伸びをする健ちゃんを見つめていたら、不意に目が合って、静かに健ちゃんが微笑むから、鼻の奥がツンとした。

やっと喋れた…

「ねぇ健ちゃん、藤崎さんと…、付き合ってるの？」

「ううん、付き合ってないよ。断った」

「そ、っか…」

彼女には悪いけど、私は心底ホッとしていた。

「あのさ…、A。悪いんだけど神社のお祭り、今年は一緒に行けないんだ」

「わざわざそれを言うために待ってたの？」

「うん。だって約束したでしょ？毎年一緒に行こうねって」

「それは健ちゃんが、射的も輪投げも型抜きも全部私にやらせて自分が欲しい景品ゲットしてもらうためでしょ？」

すると突然、表情を失った健ちゃん。

次の瞬間、閑静な住宅街に悲痛な雄叫びが響き渡った。

驚いたセミが数匹、飛び立ったていく。

「あぁぁ、また増やさなきゃだ、1日が48時間あればいいのにっっ」

頭を抱えてしゃがみ込む健ちゃんに、私が頭を抱えたいくらいだ。

「あのさ、最近どうしちゃったの？ってか、、、何で怒ってたの？」

混乱する頭の中をどうにかこうにか整理して、努めて冷静に問いかけると、次の瞬間再び急に立ち上がった健ちゃんは、私の両手をぎゅっと強く、握りしめた。

「ごめんA、俺、夏休み、巡業に出るね。日本各地のお祭り巡って、絶対腕磨いてくるから」

「はい？」

「富士山にも登ってもっと身体つくってくるし、とにかく衣、食、住！！！全部全部できる男になるから！！！」

健ちゃんの勢いはとどまることを知らない。

握りしめられた結び目は、どちらのものかも分からない汗で、しっとりと、くっついてる。

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