はい上官（軍パロ）・５ ページ5
そんな話をしていたとバレたら、笑顔のゾムに締められるのだろう。Aには確信があったので、もちろん口に出すつもりはない。
「A准尉」
ふ、と呼ばれて小首を傾げたAに、あたりを見回したその少尉は声を潜めた。
Aよりもあとに士官学校を卒業した女性で、階級的にはAが一方的に敬意を払うべき人間なのであるが、一応先輩であるAを立てているのか、プライベートでは敬語で話してくる。
「ゾム中佐と同期だったって本当ですか？」
Aは微笑んだ。見るものが見ればわかる、あまりにも生ぬるい笑みだった。
「……ええ、本当ですよ」
「それなら……あの、ゾム中佐の好みってわかります？」
ああほら……。
Aは内心で、それはもう深々と溜息を吐き出した。
口には出さないだけまだ自制心がある。
厄介なところ、その二。
わりと異性を惹きつける性質であるらしいゾムは、Aが知る限りでは恋人が途切れたことはなかった。あいにくと言っていいのか、同期の中ではどちらかといえば性別を問わない悪友ポジションに収まっていたAは、その毒牙にかかることはなかったが。
士官学校は風紀に関して殊更厳しいはずなのに、彼女が三ヶ月にいっぺん変わるってどういうことだよ。ずっと思っていたけれど。
もちろんその諸々に関しては口にしないまま、そうですね、とAは曖昧に呟く。
「ゾム中佐の女性の好みについては存じ上げませんが……甘いものが好きだという話を聞きましたよ」
「そうなんですか？」
「ええ、スイーツでも差し入れすればきっと喜んでいただけるかと」
ぱっと顔を輝かせた女兵士に、Aはそれはそれは柔らかに微笑んでみせる。見るものが見ればわかる、あまりにも死んだ目だった。
「成就なされると良いですね」
「はい」
女兵士はそうはにかんだ。あー青春だなー、その背を見送ってAは何度か頷く。むりだわ、甘酸っぱい。自分のような枯れた人間には到底無縁のことだ。老体には甘すぎます。
Aが自分で言うほど彼女が老体かといえばそうでもない。
(続く、かも？)
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弥兎。(プロフ) - 文の構成だったり、心情表現だったり、全てが好みで読みやすいです。『はい上官』が特に気に入ってます。これからも活動頑張って下さい、影ながら応援させていただきます！ (2019年10月1日 17時) (
レス) id: 029d2a2f18 (このIDを非表示/違反報告)
スギ花粉(プロフ) - 初めまして、こんにちは。 「配信中に〜」のスピンオフ番外目当てで読み始めたのですが、それ以外の作品もとても素敵で気付いたら全部に目を通していました。「そんな夢を見ました」が特に好きです。 素敵な作品をありがとうございます、これからも応援しています。 (2019年8月25日 19時) (レス) id: c38b9cd639 (このIDを非表示/違反報告)
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