赤信号の手招き・１（妖怪パロ） ページ27
時は三月。
月もささない夜道はとても暗く、まだ肌寒さを感じる頃。
足早に帰路をゆくAは、思わず溜息をこぼした。
大学で所属しているサークル主催の、今年度終了打ち上げコンパは、ほとんど強制参加のようなものだった。仕方のない話だ。人付き合いというものは重要なのだし、A自身わかっていて参加したのだから、結局解散が夜遅くになるのは当然のことである。
だけれども、こんな夜遅くに出歩くのを避けたいのは誰だってそうだろう。
特に、(名字)Aその人にとっては、もちろん女子の夜の一人歩きとは危険なものであるが、それを差し引いたとしても、暗闇とは特別に避けなければいけないものだった。
『……なあ』
小さな声が響いた気がして、思わずAは立ち止まる。とは言っても、周囲に気配はない。目を細めたAは、注意深く辺りを見回した。
左、異常なし。右、異常なし。前、異常なし。
『……聞こえてるやろ』
なんというか、非常に嫌な予感がした。
Aはおそるおそる、後ろを振り返る。
――後ろ、異常あり。
ずる、と後脚を引きずるようにして、その獣は一歩前に出る。ゆらゆらと揺れる巨大な尻尾が数本。狐のような特徴が見受けられるが、その体躯は、四つ足で立っているというのに頭のてっぺんあたりがAの肩ほどにも届いていた。明らかに、異形である。
『お前……』
そして同時に、Aは、その声がおおよそ、ヒトの言語として成り立っていないことに気がつく――この声は、今、Aの思考に直接叩きつけられているのだ。いわゆるテレパスと言えばわかりやすいだろうか。ヒトのものではない言語が、直接叩きつけられているから、人間のわかる言語に訳して伝わっている。
「……」
Aはじっくりと獣の姿を眺めた。その獣に影はない。ああやはり、とどこか納得したような心境で彼女は思う。
『美味そうや』
獣がきゅうとその瞳を細める。獰猛に牙を剥き出す。
Aはぱち、ぱちと目を瞬かせて、そしてそっともう一度、この短時間で二度目となる溜息を吐き出す。
「……欲しいのか」
Aがそう問いかければ、獣は一瞬虚を突かれたように息を止めたが、やがてすぐに言葉を撒き散らした。
『欲しい。欲しい。欲しい。ああ、腹が減った――！』
「そうか」
Aは無造作に上着の袖を捲り上げる。
「ならやるよ」
日焼けのしていない白い肌。それを鼻面の前に突き出された獣は、迷いなく喰らいついた。
赤信号の手招き・２（妖怪パロ）→←他人様の作品スピンオフ番外１２
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弥兎。(プロフ) - 文の構成だったり、心情表現だったり、全てが好みで読みやすいです。『はい上官』が特に気に入ってます。これからも活動頑張って下さい、影ながら応援させていただきます！ (2019年10月1日 17時) (
レス) id: 029d2a2f18 (このIDを非表示/違反報告)
スギ花粉(プロフ) - 初めまして、こんにちは。 「配信中に〜」のスピンオフ番外目当てで読み始めたのですが、それ以外の作品もとても素敵で気付いたら全部に目を通していました。「そんな夢を見ました」が特に好きです。 素敵な作品をありがとうございます、これからも応援しています。 (2019年8月25日 19時) (レス) id: c38b9cd639 (このIDを非表示/違反報告)
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