とある老いぼれの話。【知恵の塔、ムネモシュネ図書迷宮】

私の病気の話。 ページ3

…やぁ。こんばんは。
随分と遅い時間に来たのう。童。

して、その格好は…ははぁ。成る程。家出かえ？


______________あれ、こりゃまた驚いた。
お前さんは患っとる癖してここまで来たと言うのかえ？

そうかえそうかえ。まぁ座んなさいな。此方へおいでな。


これをやろう。ペパーココアじゃ。
ココアに胡椒を入れただけじゃがな。病人のお前さんにはこれぐらいが丁度好いじゃろう。
身体を冷やすのは最大の毒だわえ。




___________________さて、童。ここに来たのには理由があるのじゃろう？

病魔に対する不安かえ？

床に伏せている事への不満かえ？

なんでも言うてみい。









___________________ほぅ…奇病、か。


そう言いなさんな。得体の知れない物は儂でも怖いわえ。
お前さんには動じとらんように見えるかもしれんがの。かかか。




そうよのう。時はどうしたって巻き戻らん物だわえ。
お前さんがどれ程後悔しようが、何も変わる事はありゃあせん。
後悔した分だけ、減って行くのじゃ。

その発病原因とやらも、もう元には戻らん事実だわえ。

儂はのう、童。諦めろとは言わんよ。
只のう、時の流れに身を任せて、ゆったりと生きて行けば好いのじゃ。
儂にとっては少なくとも、お前さんには100年は長かろう。
たとえその寿命が縮まろうとも、お前さんがそこに居た事は、それを知る者は憶えているものよ。

当たり前の事じゃがのう。



記憶はいつかは消え去るものじゃ。貴様は貴様の一番大切な記憶と共存しなさい。
病は辛いものじゃ。___________________儂ものう。過去に幾つか、疫病に罹ってしもうての。

今となっては苦い思い出よ。


さて、童。病について知りたいのだっかたの？

すまんが儂は医者では無い。お前さんに出来る事はせいぜい励ましと雑談ぐらいじゃ。


___________________聞いてくれれば落ち着く、か。

なかなか嬉しい事を言ってくれるのう。童。


もう少しだけ、此処に居座る事を許してやる。
その心を癒してから、お家にお帰り。

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