07:夏祭りと最後の電車 ページ7
冷蔵庫の中、何も無い。
「君と外食するための言い訳にするんだ」
ベッドの上もゴミだらけ。
「君と掃除できる宝の山の間違いだ」
──今日も一眠りしながら。
僕の、僕の中の猫の観測は続く。
物凄く懐かしい記憶が、セピア色に染まって思い出された。物凄く懐かしいと言うが、本当に最近の出来事。いや言うほど最近か? でも最近だ。最近出ないと困る。
セピア色なのは何故だろう。きっと懐かしすぎて、そう。鮮やかな色彩が思い出せないのだ。
あれは夏祭りの帰りだった。だいぶ遅い時間まで彼女を連れ出してしまい僕は猛烈に反省した。「インドアのくせにすごく楽しそうだったじゃん?」と君からニヒヒと笑われて。
そりゃあ君といれば、どこだって楽しいんだよ。──そう言おうとして辞めた。なんだか恥ずかしかった。いつか言おうと心にしまった。
「送るよ」
「ううん。私このまま親戚のおじいちゃんの家に行くから」
送りはこの駅まででいいよ! と君はその日見た花火みたいな笑顔を見せて、ああ。咲くようなそれだなあと僕は思う。
この古びた──今にもまるで妖怪がで出来そうな、だけどレトロでシックで味のある駅。ここには浴衣姿が眩しい君と、スマホをバッグに入れてる僕しかいなかった。
線路の向こうが暗闇すぎて見えなかった。
早く君を返さなきゃと思う反面、まだ別れたくなくて、なんだかまだ一緒にいたくて。
「電車が来たと思ったら、猫のバスとかならいいのにな」なんて訳の分からないことを口走る始末。
「ねこのばすって?」
「いいよ、気にしないで」
そう僕は言ったのに、君はなお食い下がってきて。
「ねえ、それって貴方流の『さみしい』かな?」
その言葉に、僕は。
──”あの時”は、答えなかった。
電車がことんことんと迎えに来て、君が乗る。
「またね」と笑う君に、僕はやんわりと手を振った。
扉が開く客のいない寂しい電車。祭りの終わりにしてはどうも客のいなさが目立つなあと今になって思う。でも随分遅い時間だし、こんなものか。
扉から光が溢れるように盛れだして、その中にとんとんと軽い足取りで君は消える。
「ねえ」──僕は知らぬ顔で君に聞く。
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びぃ(プロフ) - #よにん。@str48&変人系カップルさん» お返事遅れてしまい申し訳ありません!完結までお付き合い下さり本当にありがとうございました……!!!m(*_ _)m (2020年8月29日 19時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
#よにん。@str48&変人系カップル(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2020年8月19日 20時) (レス) id: ac2334f46f (このIDを非表示/違反報告)
びぃ(プロフ) - 「 」さん» お返事遅くなりました!ありがとうございます…!駆け足最速乱文であったにも関わらず最後まで御付き合い下さり感謝しかありません…!! (2020年8月19日 12時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
「 」(プロフ) - ご完結おめでとうございます。素敵な作品で、ついつい見入ってしまいました。ありがとうございました!!! (2020年8月13日 8時) (レス) id: e81c17c75a (このIDを非表示/違反報告)
#よにん。@str48&変人系カップル(プロフ) - びぃさん» 返信ありがとうございます!通知は全然大丈夫なんですが...体調が心配だなあと感じておりまして。。。無理をしていないのなら良かったです... (2020年8月13日 5時) (レス) id: 024f1c0ff1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:びぃ | 作成日時:2020年8月10日 18時