◆ ページ12
君が、僕の頬を思いっきり殴ったのだ!
異常な流れに目の前が白黒した。色あせた世界が、突然色を取り戻すように……いや、君の顔だけが本当に鮮明に見えた。涙と一緒に余計なものが落ちたのか、はたまたきちんと思い出したのか。
「バカ。認めるのが遅いのよ!」
認めるのが、遅い?
何が?
──これを?
「私はもう、あなたの家にはいけないの」
「……」
「おはようも言えないの」
「……いや、」
「あの部屋は、生死を重ねた部屋じゃない」
電車が来て、彼女はそれだけ言うと開いた扉から車内に消える。開いた扉の中はよく見えないが、よく見えないほど眩しかった。光が漏れるとか、そんな。
「じゃあどんな部屋だ」
「自分で考えて」
「わかんないだって。正直、君からそんな辛辣に言われたことないから」
わかんないを連呼する僕に、君は少し考える素振りを見せたあと、ねえと言葉を続けた。
「私といて、楽しかった?」
「楽しくなかったって言うわけないと思うけど」
「それが答えよ。ねえ、その楽しかった思い出は予想してたよりもずっとずっと短かったと思うけれど」
「──ねえ、全部大切にしてくれる?」
見なかったことにしないで、全部よ。そう君は言うがそれは本当に難しいことだ。君のいた過去を振り返らないことが強さだと言うのなら、僕には絶対できない。僕がそんなことをべそべそと漏らしてたら、君はわかってないねえと口をへの字にした。
「寂しくなったら振り返ってもいいの。──そこに、迷いさえ残さないなら」
祭りが終わって、色んなものがお開きになって。
君が電車に乗る未来は変わらず、このまま君は匂いだけを残して去っていくのだ。
君をつかみ続けることが叶わないと、僕はわんわんと泣いてしまった。なら残った匂いを大切にしろと君は言うのか。匂いは匂いで、君ではないし。君を思い出して辛いだけ。
辛い……。辛いのだろうか。
ほっぺたがじんじんする。本当に凄い力で殴られた。実はずっと殴りたかったのではないかと思うほど強くて、ずっとじんじんしてる。なにも殴らなくたってと僕は思ったが、この痛みは、どうも頭をからっぽにしてくれる。
君は優しい人だった。──優しいから、僕の頬を殴れたのかな。痛みで視界が冴え渡る。いやもう痛くない。
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びぃ(プロフ) - #よにん。@str48&変人系カップルさん» お返事遅れてしまい申し訳ありません!完結までお付き合い下さり本当にありがとうございました……!!!m(*_ _)m (2020年8月29日 19時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
#よにん。@str48&変人系カップル(プロフ) - 完結おめでとうございます! (2020年8月19日 20時) (レス) id: ac2334f46f (このIDを非表示/違反報告)
びぃ(プロフ) - 「 」さん» お返事遅くなりました!ありがとうございます…!駆け足最速乱文であったにも関わらず最後まで御付き合い下さり感謝しかありません…!! (2020年8月19日 12時) (レス) id: 1463c1385c (このIDを非表示/違反報告)
「 」(プロフ) - ご完結おめでとうございます。素敵な作品で、ついつい見入ってしまいました。ありがとうございました!!! (2020年8月13日 8時) (レス) id: e81c17c75a (このIDを非表示/違反報告)
#よにん。@str48&変人系カップル(プロフ) - びぃさん» 返信ありがとうございます!通知は全然大丈夫なんですが...体調が心配だなあと感じておりまして。。。無理をしていないのなら良かったです... (2020年8月13日 5時) (レス) id: 024f1c0ff1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:びぃ | 作成日時:2020年8月10日 18時