単独の刃 ページ3
始まりの合図なんてものはなかった。
狐面の青年は素早く間合いを詰め、私に向けて木刀を振り下ろす。
それを真剣で受け止め、全身に力を込めてなんとか彼を押し返した。
狐面の青年は後ろに跳び、軽やかに着地する。
想像以上に早い。
……でも、追いつけないほどじゃない!
私は大きく息を吸い込み、今度はこちらから攻めに入る。
『水の呼吸、壱ノ型 水面斬り』
刀を横に振るい、彼の胴体を狙う。
しかし狐面の青年はそれも後ろに跳んで避ける。
『参ノ型 流流舞』
水が、刀を振って生まれた風が、私の頬を掠める。
ピリッとした痛みと共に、視界の隅に赤色が映った。
続け様に技を繰り出すが、どれも狐面の青年には届かない。
……当たらない。私より、彼のスピードが勝っているんだ。
彼が避け続けていたら、私は勝てない。
『偉そうなこと言って、逃げてばっかりだね。間合いを詰めなきゃ、私に勝つこともできないよ』
苛立ちを悟られないよう、表情を出さずに挑発してみる。
これで攻撃を仕掛けてくるかと思いきや、狐面の青年は木刀を下ろし、感慨深げに呟く。
「……やはりそうか」
挑発に乗ってこない。
彼が攻めてこなければ、いくら私が攻撃しても無意味だ。
彼と同じように攻撃の手を止めると、彼は感情の見えない声で言う。
「通常の水の呼吸の型よりも、攻撃の範囲が広い。自分を含め、自分の間合いにいるものを全て切り裂かんばかりに」
『それが何?』
「お前は自分を犠牲にした単独の戦闘しかできない。複数人との共闘ができない、連携が取れないんだ」
『……だから、何?』
苛立ちを抑えきれず、ブンッと勢いよく刀を振るって風を切る。
鱗滝さんは、私の広範囲に及ぶ技を褒めてくれた。
私が秘めていた才能だと。
それに最終選別は、所謂個人戦だ。
他人のことを気にしなくても、最終選別に受かることはできる。
鬼殺隊の任務だって、単独で行っている人もいるらしい。
『一人で鬼を倒せるなら、共闘なんて必要ない。一人で勝てるなら、単独の戦闘しかできなくても、何も困ることなんてない』
「本当にそう思うか?」
狐面の青年は構え直し、険しい声で続ける。
「お前の刃では、切り裂くことしかできない。守るための刃を、お前は身につけていない」
『必要ないよ。私には守りたいものなんてないから。家族とか友とか、絆とか愛だとか、そんな私感は邪魔なだけ。私は一人で強くなれる』
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時