沈まない太陽 ページ12
「……」
『……おはよう。錆兎』
目を開けると、いつも錆兎が傍にいて、私の右手を握ってくれている。
こんなふうに一方的に挨拶を投げ掛けるのも、もう何度目だろう。
一日に、何度も目が覚める。
それはつまり、一日に何度も眠っているということだ。
昼間は精一杯鍛練し、夜はぐっすり眠って体を休める。
鱗滝さんの元で比較的規則正しい生活を送ってきた私にとって、これは異例なことだ。
そんな異常な出来事をこうしてすんなり受け入れているのは、心の何処かに、これを異常と思わない私が存在しているからだろう。
私が目を覚ましたとき、いつも太陽は空の上に昇っている。
だから私は“一日に何度も眠っている”と思っているのだが、実際にどれくらいの間眠っているのかはわからない。
もしかしたら私の眠っている間に夜が来て、“いつの間にか次の日を迎えている”のかもしれない。
仮に“一日に何度も眠っている”のだとしたら、間違いなく私は異常だ。
あまり医学には詳しくないが、何かよくない病を患っているのかもしれない。
対して“いつの間にか次の日を迎えている”場合、生活リズムが少し乱れているが、こちらの方がまだ正常だろう。
そうなると、私は何日も無断で鱗滝さんの家を留守にしているということだ。
できる限り、鱗滝さんに心配をかけるようなことはしたくないのだけれど……。
そして、これらがあくまで“仮説”であり、真実が明確でない理由。
それは、これらの話になると、錆兎も真菰も黙りを決め込むからだ。
私が起きている間は、必ず錆兎か真菰のどちらかが傍にいてくれる。
二人はだいたいの質問には答えてくれるのだが、私の睡眠についてや、二人についての詳しい質問には一切答えてくれない。
……相手が言いたくないことは、無理に聞き出そうとは思わない。
けれど、やっぱり少しだけ不安になる。
こんな奇妙な生活が、あとどのくらいの間続くのだろうか。
『……弱気になっていたら、ダメだよね』
錆兎も真菰も、二人を信じると決めたんだから、最後まで信じ抜かなきゃ。
そうしないと、「判断ができていない」って鱗滝さんに怒られてしまいそうだ。
私は自分に言い聞かせるように呟いて、錆兎に向き直る。
『錆兎、私にも木刀を貸してくれない?』
「何故だ」
『ずっと剣を握らなかったら、体が鈍っちゃうから。久しぶりに素振りがしたいの』
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時