失敗作 ページ13
「……今のお前に必要なのは、」
『わかってる。でもそれは、鍛練を怠っていい理由にはならないでしょ?』
私がそう遮って言うと、錆兎は口をつぐむ。
そして狐面の奥から小さく息を吐く音が聞こえると、錆兎は自分の傍らに置いていた木刀をこちらに差し出した。
私はそれを受け取ると、両手で茎を握り、真っ直ぐに構える。
まずは大きく、鱗滝さんの言葉を思い出しながら、三十回ほど素振りをする。
錆兎は身動き一つせず、素振りする私をじっと見つめていた。
狐面の視線が気になり、私は素振りする手を止めて彼の方へ顔を向ける。
『変な癖とか無駄な動作とか、気になる所があるなら、直接言って……教えてほしい。ただ見られてるだけじゃ、わかんないから』
錆兎の実力は私よりも上だ。
自分が彼に教えてもらう立場であることを思い出し、偉そうに言いそうになったのを慌てて訂正してそう言う。
「……必要ない」
『え?』
「お前の剣技は申し分ない程まで仕上がっている。俺や真菰がわざわざ訂正する箇所はない」
『じゃあ、私は本当に……絆とか、繋がりとかが理由で錆兎に負けたんだね』
自分自身に対する戒めや確認のつもりで呟いたつもりだったが、錆兎にとっては皮肉のように聞こえたかもしれない。
チラリと横目で錆兎の顔を伺うが、そこにはいつも通りの表情の読めない狐面が広がっているだけだった。
『……』
「……」
沈黙が続く。
そういえば真菰、いつもより帰ってくるのが遅い気がする。
錆兎も真菰も、いつも何処で何をしてるんだろう。
『……錆兎は、どうして私にここまでしてくれるの? 弱点を教えて、その改善策を考えて、私とために時間を割いて……それは何のため? 錆兎の目的は何?』
いつものように黙りを決め込まれるのだとわかっていながら、踏み込んだ質問をぶつける。
吊り上がった狐面の瞳を見据えながら、錆兎の返事を待つ。
__相手が言いたくないことを、無理に聞き出そうとは思わない。
そして、彼にその質問をぶつけたことを後悔した。
__知らない方がいいこともあるから。
「……お前があまりにも目に余る、あの人の“失敗作”だからだ」
あの時、錆兎と戦った日。
錆兎は私の刀と共に、私の中の何かを断ち切った。
今回も同じだ。
錆兎の鋭利な言葉の刃は、私の中の何かを冷酷に切り刻んだ。
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時