神隠し ページ21
自分でも馬鹿げた思考だと思っている。
けれど、普通の思考では解明できないのだ。
自分の身体がどのような状態なのか、自分が一番理解していない。
それが、純粋に怖い。
『錆兎が言いたくないなら、言わなくていい。だけど……普通じゃないよね、私』
長い沈黙が流れる。
森に舞い込んできた北風に頬を撫でられ、身震いする。
寒い。
そう気温を感じられることに、少しだけ安心する。
「__“神隠し”」
錆兎は、そう一言だけ呟いた。
『“神隠し”……?』
私が確認するように繰り返すと、錆兎はそのまま続ける。
「俺と初めて会ったあの日から、お前の時間は止まっている。お前にとっては数ヶ月のような感覚でも、実際には五年と半年の月日が過ぎている」
『五年と半年!?』
相当の年月を覚悟していたつもりではあったが、こうして直接言われてみると、驚きを隠せない。
そんなにも長い月日が過ぎていたなんて。
……鱗滝さん。
『……錆兎が“神隠し”をしてまで私に強さを求めるのは、鱗滝さんの威厳のため? 水の呼吸の使い手から“失敗作”を出さないように。だから私を』
「違う」
錆兎は私の言葉を遮り、きっぱりと否定する。
「今はまだ、詳しくは語れない。だが、あの人の威厳のためだけに動いているわけじゃない」
『……』
私は身体を起こし、錆兎と向き合うような形で枝に座り直す。
『今はまだってことは、その時が来れば教えてくれるの?』
私の問いに、錆兎は重々しく頷いて見せる。
私は小さく息を吐いて、はにかんだ笑みを浮かべる。
すると錆兎はこちらに手を伸ばして、私の頬を撫でた。
「……悪かった。先日は、お前に心無い言葉を突きつけた」
『!』
「あの後、真菰から咎められて……どんな顔をすればいいのか、わからなかったんだ」
心なしか、いつもの狐面がしょんぼりとしているように見える。
私が吹き出すように笑うと、やや低めのむっとした声が返ってくる。
「何がおかしい?」
『いや、錆兎も謝れるんだなって……ふふっ』
「俺も男だ。自分に非があるときは、それを認めて相手に詫びることだってある」
『そうだよね。ごめん。……でもその割には、“どんな顔”をしているのか、見せてくれないんだ?』
少しだけ意地悪がしたくなり、錆兎の狐面を下から覗き込む。
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紅葉いろは(プロフ) - 人見さん» コメントありがとうございます(*´∀`*)初めての小説でいろいろ不安だったので、プラス寄りの感想が貰えて嬉しいです!更新頑張ります! (2021年8月14日 20時) (レス) id: cba06c9064 (このIDを非表示/違反報告)
人見(プロフ) - 面白かったです!眠っていた、という設定がすごく斬新で面白いです!ここからどういう展開になるのか楽しみです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年8月14日 18時) (レス) id: 0469953c81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紅葉いろは | 作成日時:2021年8月14日 10時