29冊目 ページ32
Aのおかげで小説のネタが思い浮かんだ。さすが専属編集者だ。
ついでなので、今まで疑問だったことも聞いておこうと思う。
「ねえ、ついでに質問なんだけどさ、“安心する”ってどんな感じ?」
Aはパチクリと瞬きをした。どんな感じ、とは一体何の質問なのか。聞きたいのはこちらだ。よくわからないのだが、きっと小説に関係することなのだろう。編集者として助けにならなければ。
「今まで小説で書いてきたけどあんまりよくわかってないんだよね」
例えばの話だが、小説でファンタジーを書いていたとしても実際にファンタジーの世界に行ったことがないのだから、主人公の気持ちはわからない。殺戮系の小説を書いていても殺戮者の心情はわからない。今の湊はそんな気持ちだ。書いてはいるが、どんな気持ちなのかはちゃんと理解していない。
「なるほど……」
安心する、といえば家族の存在だろう。そこまで言おうとしてAは口を閉じた。湊に家族の話は厳禁だ。一番初めに「安心感」や「愛情」を感じる場所は家族。だから湊には、わからない。
「Aは恋愛小説が好きなんでしょ?そういう描写なかった?」
確かに恋愛小説ではそういった描写が多い。湊も先ほど言ったように小説ではたくさん書かれる。心理がわからなくとも“何となく”や“キュンキュンするなぁ”で読み進められるシーンだからだ。
「よく恋愛ものであるのは、好きな相手に抱きしめられたり、肩で寝たりするシーンじゃないですか?お前の近くにいると安心する、みたいなことを言ってたりしますよね」
ドラマなどでも多いシーンだ。他人といても心が安らぐ、というのはその他人が特別な存在になっているわかりやすい証拠だ。
湊は悩んだあとAを見た。
「やってみて」
「え!?」
ん、と湊は手を広げる。抱きしめろと!?
慌てていると早く〜と湊が急かし始める。恥ずかしい。が、これをすることで湊がより良い小説を書けるはず。ならば仕方ない!
「し、失礼します……」
控えめに抱きしめると湊は背中に手を回しぎゅっと抱き返した。同じ洗剤の匂いが香って、心臓がドキドキして、なにも考えられない。
「なるほどね」
耳元で湊の心地よい低音が聞こえ、Aの体はビクッと跳ねた。
「安心する。温かくて体の力が抜ける感じ。相手が近くにいることを確認できていいね」
「そ、れはよかったです…」
できれば放してほしい。
じゃないと、ドキドキしておかしくなりそうだ。
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通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 有難うございます! (2019年8月17日 12時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 通りすがりの葉っぱさん» ない……ですね。設定してませんでした。私は妄想するとき夢主くんを「涼(りょう)」と呼んでます!自由に付けてくださって大丈夫ですよ!! (2019年8月17日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの葉っぱ(プロフ) - 主人公の名前って設定無しだと何になりますかね? (2019年8月16日 14時) (レス) id: a112452463 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - アリアさん» そ、そんな……!(照)ありがとうございます!ライバルというか引っ掻き回すというかーって感じなんですけど、その分キュンキュン度をあげていきたいと思います!お楽しみに!!☆ (2019年8月10日 0時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
アリア - えちょっと続編すっごい面白そう...いや、この作者を疑うのは止めよう。絶対面白いよ!凜音の小説も待ってます☆ (2019年8月9日 18時) (レス) id: 39676cde20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年4月23日 23時