願い 2 ページ3
……ん?
悪魔は自分の耳を疑った。今まで「ない」と言われたことがなかったからだ。
お金がほしい。完璧な人間になりたい。綺麗な恋人がほしい。今まで聞いてきた願いはテンプレートなものばかりだ。きっとこいつもそんなことを願って、自分はそれを叶えて、また誰かの願いを叶えることになる。そう思っていたのに。
「ないのか、願いだぞ!?別に難しいことじゃないだろう?お金がほしいとかでもいいんだ。この世界ではそれが全てだって聞いた」
「うん、まあ確かにお金は大事だけど……。もう僕にはそんなに必要ないし」
あるに越したことはないが、この体がそんなに長く持たないのも分かっている。あるだけどうせ使い道も無いわけだし、願いと言われると違うのだ。
「恋人とか」
「要らない」
「どこかの国の王になりたいとか」
「嫌だよ、面倒くさそう」
「じゃあ好みに合わせた妹」
「……それ貴方の性癖?」
うわぁ……とAが引くと「断じて違ぁぁう!」と叫ばれた。うるさい。
「とにかくな、お前に願いがないわけないんだ。だってここに俺が現れたんだぞ!願いを叶える悪魔が!つまり余程願いが強いんだ!さあほら、隠してないで言えばいいじゃないか。ここにはお前と俺しかいないんだ。対価も要らんぞ。俺が欲しているのはその欲望だからな」
よく喋る悪魔だ。聞いてないのにペラペラと話していいのだろうか。こういうのは後々だしていくものなのでは?
「だから願いは無いんだって。貴方が現れた先が間違いなんだよ」
話は終わり、とAは立ち上がった。朝ご飯の準備をしなければ。今日は何を食べようか。
「いいや嘘だね!人間誰だって願いはある!願いがない無欲な人間などいるわけがない!だから俺がお前の願いを当ててやるよ!」
キラキラとした満面の笑みで言い放った悪魔に対し、Aは思い切り眉をひそめた。うざい気持ちを込めて悪魔を睨む。
「しばらくはここでお前と一緒だ。人間、お前の名前を聞いておこう」
「……一緒にはいないし、名前を教える気もないから。出てって他の人の願いでも聞いてあげなよ」
「ほう、木崎Aと言うのか」
悪魔は寝室の小さな机に置きっぱなしにしてあった、病院の診断結果が入っている封筒を覗いていた。
何なんだこの悪魔。勝手に家に来て、話を全く聞かなくて。まるで言葉を覚えたばかりの子供と話しているようだ。
「……はぁ、もういいや。勝手にして」
いないものとして、いつも通り生活しよう。
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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時