【◇】群 青 エ ー ス . 9

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鳴「でもそれを取ったのは俺じゃなくて一也」


A「え？」


鳴「俺も取ろうと思ったんだけど全然取れなくって、だから一也が…」









本当は言いたくないんだけど！って顔をしながら鳴が御幸のことを見た。


あれ、お前それ言っちゃう？って顔して御幸は鳴のことを見ているし。


あのまま俺が取りました！って言ってもよかったのに。









A「じゃあ……トイレは…？」




鳴「行ってないよ、ずっとこれ取ってた」




御幸「大事にしろよ」








初めてもらったぬいぐるみは

とっっても優しい”先輩”がくれた。







A「あ…………あり……がと…」






言い慣れていない

ありがとうの言葉。

大切にしないわけがない。

あんなにほしかったぬいぐるみが今自分の手の中にあることはもちろん

2人があんなにも長い時間をかけて取ってくれたと思うと泣きそうにもなる。









鳴「聞こえないー」

A「言ったもん、ありがとって」








すっかり元の調子になって

Aの肩に腕を回し

ニコニコしてくる鳴はやっぱどこまでも鳴な気がする。

耳まで真っ赤なのは隠せてないけど。









御幸「あんなに怒ってたくせにすぐ機嫌よくなった」

A「怒ってはなかったよ、ただトイレ長いと思っただけだし」









怒ってごめん、とは素直じゃないAは言えず

ただ

このぬいぐるみは何も女の子らしい物を持っていなかったAにとっては大事な宝物になった。







A「今度…アイス食べに行こう」


鳴「それってデート？」


A「…………大好きな人と行くならそうかもね」


鳴「〜〜っ！！」


御幸(完全に自爆した)









ギャーギャー騒ぐ鳴と

ちょっと呆れ気味の鳴の前で

ぬいぐるみを大切そうに抱きしめるAの顔は

いつも泥だらけになって男子にも負けないくらい声を上げてる女子とは全く別の─









鳴「ほ、ほら！ほら一也！言ったじゃんAの笑った顔すごく…アレだって！」



御幸「へー…」








かわいらしい、女の子の笑顔だった。









A(これ、洋服とか作ったら…かわいいだろうなぁ)








案外女の子らしくて

野球から離れれば普通だった。









御幸(あんな顔できるんだな、Aって)









ぬいぐるみを貰った思い出と

初めて見た嬉しそうな顔が

ずっと残っている。

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