【◇】群 青 エ ー ス . 5

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鳴と話をした数日後


野球を辞めた。


いや、半分辞めさせられたと言ってもいいかもしれない。









A(つまらない)









今まで野球しかやってこなかったからか

野球のない生活はどうも違和感しかなくて。

家から私物を持ってくる際にエナメルバッグやキャッチャーミットは捨てられてしまったが

使い古したスパイクとバットは何がなんでも死守した。









A(次なんてないのに、なんで捨てなかったんだろう)









これで私は完全に

捕手でいられなくなった。

家で見つけた…靴の入った箱。

中身は見なくたってわかる









A(スパイクだろうな、メーカー的に)









母が最後に用意していた


最後のプレゼントだって分かってしまった。


それでも涙は出なかった。









A(学校に行く気にもなれないや)









空っぽになってしまった。


野球もなければ


友達もない。


母を失くし、笑うことがなくなったからか

それとも気を使ってか


無理に話を求めてくる友達はいなかった。









A(鳴、心配してるのかなぁ)









スマホのロック画面には


最後の試合で撮った


泥だらけの鳴との写真。


私の右手と鳴の左手には野球のボール。









A(楽しかったなぁ)









後悔ないは嘘だ。

あるのかもしれない。

何度も消そうと思った写真は未だに消せずにいる。

何度も捨てようと思ったバットやスパイクが入っているであろう箱も。









A(やっぱり、野球ないとダメなんじゃん)









ロック画面にいる

私と鳴の顔を隠すように

次々通知が来る。

鳴だ。

学校だというのにスマホ持ち込んでんのかあの我儘王子様は。









”今日も休んだの？”

”体調平気？帰りにゼリー買ってく？”









親みたい。

そんなことを思ってしまった。

いつもあんななのに、いざこっちが弱ると

完璧に主導権を握られる。









A(さては家には来られないこと忘れてるな)









体調悪いのは間違ってないけど

厳密に言えば体ではなく心だ。

ずっと、ずっとモヤモヤしたまま。









少し考えて





”ごめん、また教室来てくれたの？”


”体調大丈夫。”




とだけ送った。









A(鳴が教室来たら騒ぎになるだろうな)








別に恋愛感情はないけど

鳴はキラキラしてて、王子みたいだからなぁ。

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