[wrwrd]青に溶ける (ページ36)

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某日、書記長室にて。

「あの、トン氏ー……？」

「あ？口動かす暇あったら手動かせや」

書記長、トントンは執務机に座って居り、今は常に竹刀が執務机に立てかけられている。まあつまるところ一瞬で手に届く範囲にある。

「すんません……何で僕はトン氏の部屋で仕事してるんでしょうか……？？」

そう、何時もなら自分の執務室にて仕事するのが当然の事なのだが、何故か今日はトントンに引っ張りだされ、書記長室に現在座って居る。

何故か？
彼の第一補佐官が、身の事情にて一日休暇を取ったからだ。

普通なら、第一補佐官が休んだ処で幹部は普通に自らの執務室で仕事を行う。まあ当然の事だろう。

が、鬱先生は違った。現在の状況が火を見る迄も無くそれを明らかにしている。

「お前ン所の第一補佐官が休んどるからな」

「えッ、其れが何で僕をトン氏が拘束する原因になるんでしょう……」

「お前が仕事しねえからなんだよなあ、当たり前だよなあ？」

第一補佐官の休暇を良い事にサボるのは眼に見えて居た事なので、トントンがこうしてお迎え()に上がった訳である。まあ御察しだ。

「否、ちゃいますやん……」

「何が違うんすかねえ」

鬱は圧を受け、手を動かしつつ眼を逸らした。少しでも逃げる素振りを見せれば、あの竹刀がその目的を嬉々として遂行するに違いない。

「一日くらい赦してぇや……」

「昨日態々あの子が『缶詰の日』にして迷惑かけんようにしようとしたのに、お前の仕事の進行具合が遅過ぎただけなんだよなあ？？」

済みません、と頭を下げる第一補佐官の姿がトントンに思い出される。第二補佐官以降の人間に、Aの様に鬱先生を容赦無く引き摺れる人間は存在しない。

トントンとて其の多忙ぶりは今日も違わない物なのだが、今日鬱先生が仕事をしないと流石に業務に支障が出かねない。ので、自分も仕事をしつつ、鬱先生の動向に目を光らせているのである。

「書類追加。ほらあくしろよ」

出来た書類が片っ端から回収される。

鬱先生の第二補佐官も書記長室と自分の部署を行き交いし、様々な部署に鬱先生の仕事の伝言や検閲済みの書類を届けている。

絶望からか、血迷ったように部屋を出ようとする鬱先生の襟首をトントンは即行で捕まえ、「何しようとしてんすかねえ？」と悪い笑顔。

「た、煙草吸いに……」

「此処でも吸えるだろうが」

利き手に竹刀。御察しだ。

ぱァん！良い音と共に悲鳴が響き渡った。