家人：1 ページ7
sideｰshaｰ
ヴィリス姉が連れて来たのは､白い奴だった｡
髪も肌も服も白で､唯一黒いのは白目の所｡
黒目が白で､白目が黒｡
玄関で見た時は､ちょっと気持ち悪いとか思ったけど､近くで見ると､夜空みたいに綺麗だ｡
目の前で大きな箱を抱えて俯くギギ｡
多分､誰かの前にいるのが嫌なんやろなぁ｡
「…ギギ？」
「…」
近付いて､名前を呼ぶと前髪がかかった目がこっちを向く｡
やっぱり､夜空みたいな黒と月みたいな白や｡
「俺､シャオロンゆうねん！よろしくな！」
自分の名前を言って､右手を差し出す｡
ギギは､少し目を見開いてから俺の手と顔を何度か交互に見た後､おずおずと右手を出して俺の手に触れた｡
俺は逃がすまいとぎゅっ､と握る｡
ビクッ､とギギが驚いた様だったが､少しだけ握り返してくれた｡
「…しゃ､ろ…？」
「！！！…ヴィリス姉!ギギ話してるで!!?」
ガタガタッと椅子を引く音が聞こえる｡
ギギって､ええ子なんやな！
それに頭もええし､すごいわ！
「…」
「本当に､ギギが喋ったのかい？」
「おん！しゃろって､俺の事呼んでくれたで！｣
自分が話すのがそんなにも駄目なのか？
義肢が入った箱は執事のアルバートという妙齢の男に持っていかれた｡
自室に置いてくれるらしい｡
そして､今はソファに座らされ侍女のファニーという初老の女に髪を梳かされていた｡
「貴女の髪はふわふわねえ｡伸ばしてみたら可愛いと思うのだけれど」
そんなことはないと思う｡
自分は､道具だ｡
道具に可愛いも何も無い｡
ただ､命令に従って殺し壊し､死ねばいい｡
そう思い､軽く頭を振った｡
「あら､そう？私は貴女の髪好きだけどねえ」
「…」
優しく頭を撫でられる｡
それが､不思議と懐かしく感じた｡
にしても､この国の人間はお人好ししかいないのだろうか｡
自分は､つい最近まで戦争をしていた国の兵士で､信用する事さえ難しいはずなのに｡
「…」
「貴女はもう私たちの家族ですからね｡安心していいのよ」
「…」
自分は､それに頷くことができない｡
しないのでは無く､出来ないのだ｡
だって､まだ疑心を持っているのだから｡
本当に､家族になれるのは｡
ここの人間全てに対して､疑心を捨てなければならない｡
「ギギ」
「？」
「ゆっくりで良い｡私たちの名前を覚えてほしい｡名前だけでも､覚えて欲しい」
黒の瞳が細められる｡
ヴィリスの背後には彼女の弟達が期待の目で見ている｡
頷く他､無かった｡
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作者名：東の番長 | 作成日時：2019年6月3日 7時
