愛しき喰種【東京喰種】

#20 ウタside＆貴方side ページ21

貴「おはようございます。ウタさん！」


黒く艶やかなポニーテール。長い睫毛と大きな瞳に、ぱっと花が咲いたような笑顔。
一人暮らしの少々殺風景な部屋の中で、彼女の周りだけが輝いて見えた。


ウ『おはよう。Aちゃん』

貴「私もうそろそろ出なくちゃいけないので、戸締りお願いしますね。洗濯物はたたんで棚の上です。今日は可燃ゴミの日なのでついでに捨てて行きますね！」

ウ『朝から元気だね……若い子は凄いや』


テキパキと身支度を整える彼女を眺めながら、呟く。


貴「ウタさんは寝るのが遅いんですよ…夜更かしは良くないですよ！ていうか、歳だって４つくらいしか変わらないじゃないですか」

ウ『ふふ……そうだねぇ。
出来るだけ大通りは通らないように。気をつけて。芳村さんによろしくね』

貴「はい！それじゃあ行ってきまーす！」


元気よく出ていった後ろ姿を眺めながら、人は強いな、としみじみ思う。


彼女が僕の元へ来てから３ヶ月。
少しずつ落ち着きを取り戻し、新しい生活にもすっかり慣れた少女は、あんていくでバイトを始めた。「ただ置いてもらうだけでは申し訳ないし、生活費位は自分でなんとかしたい」という本人の希望だ。
元々家事の類いは自分でやっていたようだし、歳の割にしっかりしている彼女は、店での仕事もすぐに覚えた。彼女が働きにでて僕はまだ寝室に居るだなんて、まるでヒモのようだななんて少し思ったりもするけれど、夜眠る時、朝起きる時に隣に誰かが居る生活はとても心地良い。


ウ『さて、僕もそろそろ仕事するか』



【貴方side】


古『Aちゃん、日替わりモーニング一つとクラブハウスサンド二つお願い！』

貴「はい、それと季節のシフォン出来たのでお願いします！」

古『ふふん！お任せあれ！』


あんていくで働くようになって、3ヶ月になる。世間では行方不明者という扱いを受けている私はここのキッチンを受け持っていた。本当は給仕もやってみたかったけれど、素性がバレる訳にはいかないから。こればかりは仕方ない。
元々料理は得意だったけれど地元に愛される喫茶店のメニューはやっぱり本格的だ。でも、入見さんや古間さん、店長に教えて貰いながら少しずつ腕を磨いている。今はまだ盛り付けと簡単な作業だけだけれど、いつか店長みたいに珈琲が入れられるように、とか考えている。


入『Aちゃん、珈琲ゼリー二つ追加入りました』

貴「えっ！すぐ盛り付けます！」


私は結構幸せに暮らしている。

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