愛しき喰種【東京喰種】

#10 貴方side ページ11

咄嗟に彼をはねのけ、反対側の壁まで退き踞る。
安心感は、一気に恐怖へと変わった。


貴「…っ…!!…」

ウ『目…見ちゃったか…しょうがないな…』


少し驚きながらも彼は冷静な口調を崩さず、
つかつかと近付いてくる。

震えが全身を支配していて上手く息吸う事ができない。


ウ『驚かせちゃったね…でもぼ…



貴「「来るなっっ!!!」」



無意識に、声が出ていた。

言われた本人も立ち止まる。


貴「なんで…私をっ…連れてきたりしたの…
なんで…"人間"の私に…ここまでするの…？」


部屋の景色が、滲んで、ぼやけて、
零れ落ちていく。

ふと、優都の顔が頭に浮かんだ。

純粋で無邪気なあの笑顔が。

俯きたくなるのを必死に堪え、じっと彼を見つめて、口を開いた。


貴「どうして…私達人間を…喰べるの？…」


ずっと、胸の中に閉じ込めていた言葉。

きっと私は、もうすぐ殺されるだろう。
この人に。
優都があの喰種にそうされたように。

だったら、最後に一つくらい、聞きたいよ。
聞かせてよ。


貴「ただ…平穏な生活を送っていただけなのに…なん…








頬に、暖かい手が触れる。
顔を上げると、真っ赤な瞳が真っ直ぐに私を
見つめていた。


ウ『なんでヒトを喰べるのかなんて…僕が知りたいよ。』


貴「…え…？」

ウ『…僕ら喰種はね…
ヒトしか喰べられないんだよ。
産まれた瞬間から君達の命を奪うことでしか、生きることが出来ない。』

貴「……。」

ウ『でも…君の事を喰べるつもりは無いんだ。
ただ…君の側にいたい。
それだけは、わかってくれないかな…』


静かに淡々と話す彼の
その瞳は、声色は、
どこか、悲しみを帯びているような気がした。

こんな喰種もいるんだ…
って素直に驚いている自分がいて。

彼なら、信用しても良いかもしれないと
少しだけ思った 。



貴「…ごめんなさい…来るなだなんて言ってしまって…」

ウ『いいよ。気にしないで。
…あ、でも服はどうにかしないとね。』


言われて見てみると、制服には赤黒い液体が
広い範囲に付いていた。

多分…優都のだ…。
見る度に、胸が締め付けられる。


ウ『イトリちゃんなら、なんとかしてくれるかも…よし。行こうか。』

貴「あっ、あの何処へ…？」

ウ『僕の友達のところ。彼女なら服貸してくれると思う。夜なら、それもあまり目立たないだろうしね。』


彼はコートを羽織ると私の手を握る。
顔が熱くなるのに気づかないふりをしながら
私達は外へ出た。

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