もう、つらい思いなんてさせない。【まふまふ】 (ページ24)

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まふまふside

「Aっ……？ちょ、Aっ…？！」

Aの身体が斜めに傾いて、バランスを崩していく。
僕は必死に手を伸ばして、Aを抱き支えた。
もうその時には意識がなくて、頬に一筋の涙の跡を残して気を失っていた。

僕は、Aを抱きしめたまま、目の前にいる男を睨みつけた。
へらへらと気持ち悪く笑っているそいつは、僕の目を見たとたん「あ？」と無表情になった。

「お前だれ？」
「……Aの彼氏です」

僕がそう答えると、無表情だった顔が小さく歪んだ。

そういえば、どこかで見覚えがある。
ピアスだらけの耳、派手すぎる服と髪色。意地悪く上がっている口角。

…あ

「幸助…さん…？」

ああ、だから。だからA、こんなになっちゃったんだ…。
きっと、Aが一生のうちでいちばん会いたくなかったであろう人。

木戸幸助

一年前、僕からAを奪っておいて、こんなに傷つけた人。
傷つけるだけ傷つけて、最後にはAをひどい言葉で捨て去った人。
死にたいだなんて思うほどに、Aを追い詰めた人。

「なんで、…なんであなたがここに…？」

いつのまにか僕の声も震えていた。

なんで、どうして。
やっとAと幸せになれるって、僕が幸せにしたいって、そう思ってたのに。
ずっと一方的だったこの想いが、叶ったばっかりなのに。

幸せって、こんなに儚くて脆いものだったっけ？

できるなら今すぐAを連れてこの場から逃げ出したい。
Aの中から、幸助さんと再会した記憶をかき消してあげたい。

もう、Aに二度もあんな想い、させたくない。

もう十分でしょ。
もうやめてあげて。
あんなに苦しい思いしたんだから、もう許してあげて。
一体Aがなにしたっていうの。

「まぁいいや。Aに伝えといて。」

幸助さんは僕の耳に唇を近づけると、僕にも聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で囁いた。

「」

それを聞いた瞬間、体中の血がざぁっと引いていくのがわかった。
一拍おいて、恐怖がこみあげて身体が震えてくる。
喉がからからに乾いて、心臓にガラスの破片が突き刺さったみたいな痛みが身体を駆け抜けた。

「………そんだけ。じゃあな」

そう言って幸助さんはくるりと向きを変えて歩いて行った。

僕とAに、恐怖心だけを植え付けて。

Aを抱きかかえたまましゃがみ込んだ僕を、たくさんの人が心配そうに見つめていた。