底無し沼(センラside) ページ22
発車した車内には何故か気まずい空気が流れていた。
Aちゃんはずっと黙って窓の外を眺めている。その横顔が今にも消えてしまいそうな儚さを持っていて、俺は何か話題を振ろうと必死になった。
『Aちゃん、ちゃんとお腹いっぱいになった？』
「はい…どれも美味しかったです」
声を掛ければ、しっかりと返ってきた返答。何とか掴んだ会話の糸口を逃さぬように、俺は言葉を続ける。
『Aちゃんは好きな食べ物とかある？』
「えっと…焼肉とふわとろオムライスです」
変に男受けを狙っていない彼女の好物に、自然と頬が緩む。
けど、焼肉は分かるとして、ふわとろオムライスってただのオムライスじゃあかんのやろか。
話を聞けば、彼女にとってどちらも家族の思い出の食べ物だという。仲が良さげな家族の様子と、その思い出を大事にしている彼女の心の清さに「ええなぁ」と思わず口に出して呟いてしまった。
さて、好きなものを聞いたところで、彼女を食事に誘おうと思うわけだが………ふわとろオムライスはお家で食べるものだろうから、誘うのは焼肉が良いだろう。
『ほな、今度一緒に焼肉行きましょか』
「…今度？」
『おん。友達とよく焼肉食べるから、結構東京の焼肉屋さんには詳しいで？』
「是非、行きたいです」
冗談めかしてそう言えば、彼女は車に乗ってからようやく初めて笑ってくれた。やっぱりAちゃんは笑った顔の方が似合っとる。
ちょうどその時、タイミンブ良く赤信号で車が止まったので、俺は胸ポケットからスマホを出して、スケジュールを確認する。
だが、明日以降予定が立て込んでいて、ゆっくり会える日は無さそうだ。折角掴みかけたチャンスもこれでは逃してしまうかもしれない。
「んー、暫くこっちに来られへんからなぁ…Aちゃんはいつ空いとる？」
『そんな！お忙しい折原さんに私が合わせますよ…！』
落ち込んだ俺の心を救うような、彼女の一言。何気なく相手を気遣えるその優しさを持つ彼女がどうしようもなく愛おしく思えてしまう。
人はたった1日でこんなにも人を好きになれてしまうだろうか。底無し沼に落ちていくように、どんどんAちゃんが好きになってしまう自分に若干驚きつつも、嫌な感覚はしなかった。
『ほんま、ええ子やな…』
ここまで来てしまえば、もう隠しきれない。完全に声が甘ったるくなってしまったが、Aちゃんは顔を真っ赤にして俯いて照れるだけ。
車内には甘酸っぱい空気が漂っているように感じた。
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紫苑(プロフ) - リリトさん» リリトさん、コメントありがとうございます！ そんな偶然があるんですね？！自分で名前を設定しておきながら驚きました笑 (2020年11月9日 19時) (
レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
リリト - 漢字は違うけど、本名同じ人おったｗｗ (2020年10月22日 17時) (レス) id: 5c9bfe90e0 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - ひよりんさん» こんばんは。メッセージを返信させて頂きましたので、ご確認頂ければ幸いです。 (2020年8月22日 0時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
ひよりん(プロフ) - こんにちは。メッセージ送らせていただいたので、見ていただければ幸いです。 (2020年8月21日 21時) (レス) id: 222226e292 (このIDを非表示/違反報告)
紫苑(プロフ) - センラさん推しさん» センラさん推しさん、コメントありがとうございます！ 神様だなんて畏れ多いです…！ですがありがとうございます、嬉しいです。 これからも頑張りますね！ (2020年3月18日 22時) (レス) id: 25868fbf10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：紫苑
| 作成日時：2019年11月1日 18時
