再演 第六章 ページ6
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言い訳をするなら、この騒がしくごった返している人の群れの中、あっちこっち飛んでくる布と蕎麦殻の塊の中で、たったひとりの人物を見失うことなくずうっと監視しておくなんて所業は、難しいなんてものではなかったのだ。周りの人間に通達でもしていればまだ違ったのだろうが、このことを知っているのは、それぞれの部長とティータイムに居合わせていた、限られた者たちだけだった。
結局のところ、敗因はそのふたつだったのだ。
そっ、と仁王は目を逸らす。
あちゃあ、と千石は額に手を当てる。
「ア?」
「ア゛ア?」
ごった返す人の波に揉まれ、いつしかお互いの近くまで流れてしまったがゆえの、いつぞやの再来である。ただ違うのは、実力行使に踏み切ってしまえるような、興奮に煽られた現場の環境と、そして双方とも、両手に枕を引っ掴んで対峙しているということだった。
「…………」
「…………」
ふたりは黙ったまま睨み合う。仁王や千石がその間に入らなくてはと思うものの、周りが乱痴気騒ぎなせいでおいそれと近づくことができない。
――先に沈黙を破ったのは、亜久津の方だった。
「……テメェ、なんで戻って来やがった」
「あ?」
せめてと耳を傾けていた千石は、何を言い出したんだと危惧する。
「んだソレ。喧嘩売ってんの?」
答えるAの声は低い。ぐるる、と獣が喉の奥から威嚇の声を上げているに近い。カッと開かれた瞳孔は細く、重心を低くして、跳びかかる寸前といった具合の。しかし同時に、言葉の意味を測りかねているのも事実。
「…………テメェは」
亜久津は珍しく言葉を探しているようだ。……それが功を奏しているかどうかは微妙だが。
「テメェは、戻ってこない方が楽だったんじゃねえのか」
相変わらずAを睨みつけながら、こちらもまた低い声で、亜久津は言った。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時