敬服せよ、 ページ40
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「は? なんで? 嫌だけど」
周囲の戦慄をよそに、Aはその誘いをいとも簡単に断ってしまった。さすがに冷静である。彼の場合、試合とは是が非でもやりたいものではない、というのが功を奏したか。これが他の者であったなら、十中八九己の闘争心に負けてしまっていたことだろう。
肝を冷やしていた者たちはそっと胸を撫で下ろす。
「俺がさ、この状況で。喜んで試合なんてすると思うかよ」
にべもなく断られた形の平等院はしかし、くっくっと愉快げに肩を震わせた。
「ならば仕方あるまい――他の相手を見つけるまでよ」
そう言って彼は、ゆっくりと品定めをするように中学生たちを見回した。
「……ア? おい、テメェ、何考えてやがる?」
――と。それまで不遜に構えていたAが、突如揺らいだ。
それは。それだけはだめだ。それだけは――テニスに対してどこか斜に構えているAの、唯一のトリガーだ。
彼にとっての“テニスをやる意味”。彼にとって、何よりも大切なもの。
Aなら、こんな危険な戦いを受けたりなどしないだろう――しかし、仲間の存在を盾に取られてしまっては、その限りではない!
「A!」
咎めるように声が飛んだ。跡部の声だ。
しかしそれが、結果的に平等院の目線を寄せてしまうことになる。
平等院が宙にボールを放った。バンッとラケットで、それを叩く。放たれたそれはさすがのコントロールで、真っ直ぐ。
真っ直ぐ向かっていく――跡部の方へ!
「……ッ!」
構えてすらいない跡部は、対応することができないのは明白! そして、恐らく全力ではないそのボールですら、大きな怪我をもたらすであろうこともまた、誰の目にも明らかだった。
――誰もが最悪の光景を予想したその時。
前から予測していたかのように、動けた男がひとり。
ボールが跡部に迫る軌道上に、滑り込んだラケット。大きくはじかれた球は、コートまで戻っていく。
「A……ッ」
その男は、それだけでは止まらなかった。打球を追いかけるかのように、駆け出す。――乱暴にも観客席の座面を蹴って跳躍。仕切りの壁の上に着地し、もう一度跳躍。流れるようなその動作は、まさに獣のそれ。
コートに躍り出た彼は、平等院に向かっていく。平等院は、思惑通りという表情で笑っている――。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時