殺し屋と妙技師、それから狼 ページ36
.
「――Aクン」
背後から呼び止められて、Aは足を止めて振り返った。そこに立っていたのは、固めた髪に眼鏡、紫のユニフォームに身を包んだ――比嘉中キャプテン、木手永四郎。
木手とAは練習中に絡むことはあっても、ごく親しいとは言い難い。むしろAの人を喰ったような態度は木手とは合わず、眉を顰められることもしばしばだった。そんな男から声を掛けられるとは。Aはこてんと小首をかしげる。
「貴方、丸井クンとは親しいのでしたよね」
「ブンちゃん？」
きょとん、とAは瞬いた。そして、腑に落ちない顔で首の角度を大きくする。
「親しい……ええ、親しい？ 親しい……のかァ」
む、と唇を若干尖らせて、不満げな表情のA。普段の仲を見せておいて、今更なにが不満なのかという話である。こういうところが木手の苦手なポイントなのだが、それは余談として。ちなみに彼のこれは照れ隠しのようなものなのだが、これも余談。
木手は咳ばらいをひとつ、ともかく、と言葉を続ける。
「ともかく――先に謝っておきますよ。貴方の大切な友人を、危険に晒してしまうことになるでしょうから」
木手の表情は読めない。冷徹な切れ長の瞳はすうっと細められて、Aを見ている。
「…………」
ここ数日、木手とブン太が組んでなにやらやっていたことは知っている。そして、木手の異名についても。しかしAはきょとんとした顔を崩さない。そんなAにしびれを切らしたように、木手は舌を打つと、
「うちなーを甘く見ていると、痛い目を見ますよ」
と言いながらAの横をすり抜けていく。
数歩、廊下を歩んだところで、「……甘く見てると痛い目見んのは、どっちだろうな」、そう言った声で、木手は立ち止まる。
「殺し屋さんも案外律儀なモンだな。いや、案外臆病なのか？」
「……は？」
突然に臆病と言われた木手は、うっすら青筋を立てながら振り返った。逆光になったAの陰の落ちた顔が、笑みを作っている。
「お前が何企んでんのか知らねェけど……お前、ブンちゃんのこと侮り過ぎだぜ」
くつくつと肩を揺らして、Aは言った。
「あいつ、割と性格悪いし？ 自分さえよければそれでいい的なところあるし。テメェはジャイアンかっての。――だから」
せいぜい睨まれないように気をつけろよ、スネ夫くん。
ふん、と鼻を鳴らした木手は、今度こそ背を向けたのだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 171人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます！！（大声） (2020年3月11日 19時) (
レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました！もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください！ (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです！覚えていてもらえて嬉しいです！！予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます！ (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：角砂糖 | 作成日時：2019年3月18日 21時
