ヘリオトロープ 白 ページ19
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「おい、なにを騒いでいる――……」
誰かが呼んだか、部長が部屋を覗き込んだ。水浸しになった部室と騒然とする一年生たちに、「何があった?」と眉を顰める。何人も生徒が彼を取り囲み口々に状況を報告している中、主犯の生徒は茫然とし、周りにいた生徒たちも巻き添えを食らってあたふたとしている。Aだけがやるべきことは果たしたと言わんばかりに、手のバケツをぞんざいに放った。それは地面に当たって、ガランと大きな音を立てた。
「…………話は分かった」
部長は言った。
「あとは本人たちに聞こう。他の者は仕度をして速やかに下校するように」
鶴の一声により人がはけ、静まり返った部室で、彼は腕を組んで当事者たちを見下ろす。
「なにか、申し開きはあるか?」
その威圧感に身を縮こませて、視線を床付近にさまよわせながら、ぼそぼそと言い訳を口にする生徒たち。Aだけが、すでに興味をなくしたように、そっぽを向いていた。
彼らの不明瞭な言い分をしばらく黙って聞いていた部長は、長々としたため息でそれらを黙らせると、「……まったく」と低い声で彼らを諌めた。
「……たとえどんな理由があろうと、陰湿な私刑を許すことはできない。この件は、顧問と担任の先生それぞれに報告する。処遇が決まるまで、お前たちは部活禁止だ」
粛々とそれに頷く生徒たち。ぼそぼそとした謝罪を口にするも、「謝る相手が違うだろう」と言われ、Aを見遣ってまたぼそぼそと頭を下げた。Aは気のない風に、あるいはいくらか面倒くさそうにさえしながら、おざなりに首肯する。
「……それから、A」
そんな彼にも、部長は言葉を向けた。
「私刑が許されないのはお前も同じだ。お前の行為は単なる暴力と同じだぞ。これもまた、先生方に報告させてもらう。罰としてお前も部活禁止――と言いたいところだが」
それでは罰にならないだろう、と彼は言った。参加禁止処分など、罰どころか、サボりの大義名分を与えるのと変わらない。
「だからお前は――一週間、部活を休むことを禁ずる」
「……は?」
初めてA少年の目が、部長の方を向いた。不服をありありと訴えるその目に射抜かれて、それでも部長は口角を上げる。
「罰だからな。しっかりと守れよ」
チッ、と少年の舌打ちが響いた。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時