28 また明日 ページ28
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「 そう、なんや 」
Aの視線から逃げるように
手のなかで黒くゆれるコーヒーに
視線を落とした俺に、
小さく、消えそうな声を返したA。
顔を上げれば、
組んだ両手の指を強く握って
下を向いているAがいて。
薄く開いた唇から
ゆっくりと息を吸い込んでから
優しい笑顔で俺を見た。
「 どんな人？ 」
そうやって
Aが聞くものだから
胸が、締めつけられるようで。
「 綺麗な、人やで。この世でいちばん 」
そう口にした言葉は、隠された告白。
息が止まりそうなほどの
緊張感をもったその言葉に
なぜか、
心が軽くなったような気もした。
「 そっか、 」
ふふ、羨ましいなあ。なんて俯いて
穏やかに笑って見せるAに、
「 Aは？どんな人なん 」
何も気にしていないふりをして
問いかけた。
Aは一瞬だけ俺を見て
また、視線を落としていく。
「 そうやなあ 」
すこし伏せられていた瞼(まぶた)を
そっと瞑って。
少しの沈黙のあと、
何かを思い出したように小さく笑う。
「 私の好きな人も、綺麗、かな 」
ゆっくりと開かれた瞳は
テーブルの上で組まれた指先に
落とされたまま。
ぽつりと、言葉を紡いだAは
大好きだと言っていた
ルノワールの絵を見ているときと同じ
穏やかな笑顔をうかべている。
「 私がいま見てる、美しい世界は
その人がいてはじめて、完成するねん 」
誰のことを、思っているのか。
Aにとっての"好きな人"は、
俺にとってのAそのもので。
それなのに俺は、
Aのことを きっとまだ知らない。
昼下がりのフランス庭園に
１時間だけ現れること。
絵が好きで、無邪気に笑って、
それでいてすごく、
美しい心をもっていること。
それ以上のことを、知る勇気がなくて。
俺に会っていない時間、
誰とどんな話をして
何を見て、何を思って、
キャンバスのなかに何を描いているのか。
その心に強く映っている光は
どんな色をしているのか。
きっとまだ、その内のほんの一部しか
俺は知らなくて。
だけど、
それを知りたいと思うのはきっと
欲張りすぎ、なのだろうと思うから。
「 ええなあ、そういうの。羨ましいわ 」
また明日も、
彼女がここに来てくれるのなら
それだけで、いい。
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蒼蔵みほ(プロフ) - 桜さん» さくちゃん(;_;)読んでくれてありがとう(;_;)本当はいつも暖かさだけを書こうと思ってるんだけど、ルノワールの名前を出すには影も入れなくちゃいけないと…。そこを理解してくれるさくちゃんにありがとう(;_;) (2017年2月6日 21時) (
レス) id: ac1d6ae13e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - ようやくパルファンに手を伸ばす事が出来ました、優しく温かい文章の中に存在する確かな冷たさはみほちゃんの作品において良いスパイスであり、そんな描写があるからこそ彼らの物語が成立するのだと思うと切なくて、愛おしい、素敵な物語をありがとう、楽しかったです (2017年2月2日 19時) (レス) id: 3a95ea47e4 (このIDを非表示/違反報告)
蒼蔵みほ(プロフ) - 流れな星さん» 流れな星さん、ありがとうございます。やさしい物語、なんてすてきな表現を私の作品につかっていただけたことがうれしいです。私も、また流れな星さんにお会いできることを願っています。 (2017年1月9日 23時) (レス) id: ac1d6ae13e (このIDを非表示/違反報告)
蒼蔵みほ(プロフ) - なこたんさん» なこたんさん、ありがとうございます！そんな風に言っていただけて、何度もお伝えしていますが本当にうれしいです。大切な読者様のために、パルファンのほうもきちんと書ききりますので。お付き合いお願いいたします。 (2017年1月9日 23時) (レス) id: ac1d6ae13e (このIDを非表示/違反報告)
流れな星 - 執筆お疲れ様でした。やっぱり蒼蔵さんのやさしい物語が好きだなあと感じました。また次の作品も読者になれたら、と思います。 (2017年1月1日 21時) (レス) id: 6ec4e38795 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼蔵
| 作成日時：2016年10月12日 19時
