名を付けるならなんと呼ぶ【ONEPIECE】 (ページ45)

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幼い頃の記憶は、朧気で、もう殆ど形を残していない。

世界の在り方や、理由なんてものを理解するよりも先に、
Aは、虐げられ、痛めつけられることに慣れてしまっていた。

もうずっと昔のこと。
たった1人の親族である兄とふたりで暮らしていた。

どうしてそうなったのか、詳しい経緯は思い出せない。多分、人攫いに誘拐された。
連れて行かれたのは人身売買競売場(どれいオークション)。

そこで、A達は2人揃って商品にされるかと思った。否、そうなる筈だった。

なのに、オークションが始まる直前、
Aの目の前に、商人では無い誰かが来たのだ。
恐怖で黒く塗り潰された顔は、何度試しても思い出せそうに無かった。

その辺の記憶は、殆ど無い。
今断片的な記憶を繋ぎ合わせて、あれはああだったのだろう、という推理を自分でしているだけ。他人が書いた史録のように事実を記憶しているだけだ。

私は競りに出されることなくその人に会場を連れ出さた。

助けられた訳では決して無い。私の扱いは首輪こそ無いものの、それと同じかそれ以下で、結局は行き先が変わっただけ。

助けて、と。兄の名前を何度も叫んだ私を、その男はあっさりと蹴飛ばし、「五月蝿ぇ餓鬼は嫌いだ」と、私が気を失うまで殴り続けた。らしい。
そう誰かが話しているのを聞いただけだ。