溺れないでよ【シルバー】 (ページ41)

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記憶と茶会ページ41

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『ただいま……』

ぐったりとした顔で実家の扉を開いた。ひっそりとした森の中にぽつんと建っている小さな小屋にAは一人で住んでいる。この家で一人で過ごすようになってから早ひと月、リリアの私物だらけでごちゃごちゃのリビングも、未だに広く感じる。
学園の移動装置で帰ってこられたらよかったのだが、できるだけ生徒の目につかないようにという学園の計らいから闇の鏡の使用は許可されず、行きも帰りも学園の謎の馬車で山越え海越え帰ってきたのだ。どっと疲れたAは自室に戻って倒れるようにベッドに沈んだ。

靴も脱がずに横になって眠りにつこうとすると、誰かが門を叩く音がして体を起こした。半分脳が眠っている状態でのろのろと玄関まで行き、扉を開けた。そこには手土産を持ったセベクが仁王立ちしていた。ただでさえ歳の割に身体が発達しているというのに、態度まででかいのだ。

「突然の訪問ですまないな、A」

『いや、何もせずに眠ってしまいそうだったから助かった。上がってってよ』

セベクは玄関口をくぐるとき、扉が低すぎて少し頭を下げながら入った。Aが先導するように少し前を歩いて、二人はリビングのテーブルについた。

「フン、シルバーがいなくなってから腑抜けているんじゃないか。」

『まさか、』

「変わらないよ」と自嘲にも近い笑みで、Aは紅茶を淹れる。本当は珈琲を飲みたかったのだが、セベクが好きじゃないのでやめた。これを言うとすぐムキになって無理に飲もうとするから尚更言わない。

『シルバーも全然変わってなかったしね』

「？会ったのか？」

『ええ、意外とすぐに』

谷を出発する前にセベクと、学園は人が多いから会おうと思っても中々会えないだろうと予想していたのだ。実際、マレウスとリリアには一度も見なかった。
これは余談だが、谷へ帰ってきたらすぐに学園がどんな様子だったかを教えて欲しいとセベクに頼まれていた。彼もまた、NRCで学ぶことを志していた。その為ここでこうやって二人でテーブルを囲んでいる。セベクが持ってきてくれたスコーンを温め直し、紅茶とともに二人分をテーブルに並べた。

『とても賑やかで、広くて沢山人がいて、キラキラした魔法に溢れた場所だった。何もかも目新しくて忘れられないわ』

うっとりと頬を緩めるAに、セベクは「そうか」とだけ返した。珍しく物静かなセベクに、少し疑問を感じたAは、彼の顔を紅茶の湯気の間から盗み見た。