* ページ26
*
楽屋招待があることをすっかり忘れていて、彼女を引き連れて楽屋に戻るとうらさんにぴしゃりと怒られてしまった。
彼女は横の部屋にいるね、なんて冷めた声で言い部屋を出ていってしまった。
その時の彼女の横顔は見えなかった。
「ごめん、A。待たせてもうて」
「ううん大丈夫」
「んじゃ、改めて行こか、楽屋」
楽屋招待が終わって、隣の部屋に入ると彼女は浮かない顔でスマホをいじっていた。
肩が縮こまるような気持ちで話しかけると、いつもと変わらぬ笑みで大丈夫だと返してくれて、ほっと胸をなでおろした。
もう一度彼女の手を握り、楽屋に行く。
もう、彼女の手は汗のあの字もなかった。
「あ、坂田おかえりー。Aさん、こんばんわ。久しぶりやな〜」
「こんばんは、志麻さん。…久しぶり…だっけ?」
「最後に
「よく覚えてるね」
楽屋に入った途端、まーしぃはにこにことAに話しかけていた。
Aもそれに笑顔で返すもんだから、自然と離れてしまった手を拳にせざるを得ない。
それに気づいたセンラが、まぁまぁ落ち着き、なんて言う。
うっさいわぼけ、なんて吐き捨ててどすんとソファーに座る。
「…ったく。志麻くん、坂田が拗ねてるからそのへんにしとけ」
「拗ねてへんしっ!!」
「ほんまや拗ねとる。…じゃあまた今度話そ、Aさん」
「…はい」
ああ、聞きたくない。聞きたくない。
さらっとAと次の約束を取り付けるまーしぃの弾んだ声も、残念そうにワントーン下がったAの声も。
連れてこんかったらよかった。
俺はただ、カッコよかったよって褒めてほしくて、ファンサ多いよって嫉妬してほしくて。
ただ、それだけやったのに。
そんなやつらと、にこにこ話しとらんで、ここに来て。
拗ねないでよって、さっきまーしぃに見せた倍以上の笑顔で言ってみせて。
そうしたらきっと、こんな汚れた気持ちなんて一瞬で消えてくれるから。
「……A、」
なあにって返す笑顔は、せめて営業スマイル以外にして。
.
40人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ