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放課後の校舎に自分の足音が響く。どこもかしこも夕日で染め上げら、この一ヶ月を鮮明に思い出す。この約一ヶ月は妙に長く感じた。それは恐らく、全部が初めて体験する出来事だったからだろう。
空き教室へ行くと、声を押し殺して泣くAがいた。机の上には『蓮くんへ』書かれている手紙がある。涙で滲んでいるそれを自分の鞄にしまい、床に乱雑に置かれたAの鞄を背負う。
「A、帰ろう。」
目の前にしゃがみこみ、そう一言言った。頷いたのを確認し、左手をとった。ゆっくりと歩くいつもの帰り道は、笑い声も話し声もなく、代わりに泣き声が響く。家に着き、そのままAの手を引き部屋へ行くと、やはり部屋は暑い。冷房を入れようとリモコンを取ろうとすると、くいっと制服の端を遠慮がちに摘まれた。
「なるせ…私ね、失恋したよ。」
顔を涙で濡らし、苦しそうに言った。
「やっぱり先輩が好きなんだって。そりゃそうだよね!私なんか先輩みたいに美人でも優しくもないし!それに」
「A。」
息継ぎをしないで自己否定するAの名を呼び、涙でぐちゃぐちゃな顔を両手で包みこんだ。
「Aは俺の幼馴染で、親友で、可愛くて、異変があるとすぐに気づいて話を聞いてくれる、とても優しい女の子だよ。」
もう、すべて言ってしまおうか。言ってしまったらこの先、俺たちの関係が気まずくなるかもしれない。それでも伝えたかった。顔を包んでいた両手を背中へ回して、こちらへと抱き寄せた。
「俺ならAを泣かせやしない。傷つけさせない。俺が全部守るから…!」
声が震える。拒絶されるだろうか。俺の前から消えてしまうのだろうか。
「前に言ってたなるせの好きな人って、私…?」
Aの驚く声が聞こえた。俺が君のことを好きだなんて思っていなかったのだろう。静まり返る部屋に、いつしか聞いた鳴き声とは違うセミの鳴き声が聞こえた。
「__そうだよ、言わずにいてごめんね。伝えるのが怖かった。それに、Aが望んだ幸せを、応援したかった。」
抱きしめていた腕を解いてAを見ると、涙は止まり泣き跡が残っていた。あいつのことを想って泣いたと思うと苦しくなる。
「俺は、Aのことが好きです。このタイミングで言うのは卑怯だって分かってる。失恋したばかりだから、断られるのも目に見えている。」
「だから、これから俺の事を好きにさせるから。」
全部伝えるとAは分かりやすく顔を赤くして、綺麗な笑顔になった。
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飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)
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