検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:14,455 hit

ページ5

放課後の校舎に自分の足音が響く。どこもかしこも夕日で染め上げら、この一ヶ月を鮮明に思い出す。この約一ヶ月は妙に長く感じた。それは恐らく、全部が初めて体験する出来事だったからだろう。

空き教室へ行くと、声を押し殺して泣くAがいた。机の上には『蓮くんへ』書かれている手紙がある。涙で滲んでいるそれを自分の鞄にしまい、床に乱雑に置かれたAの鞄を背負う。

「A、帰ろう。」

目の前にしゃがみこみ、そう一言言った。頷いたのを確認し、左手をとった。ゆっくりと歩くいつもの帰り道は、笑い声も話し声もなく、代わりに泣き声が響く。家に着き、そのままAの手を引き部屋へ行くと、やはり部屋は暑い。冷房を入れようとリモコンを取ろうとすると、くいっと制服の端を遠慮がちに摘まれた。

「なるせ…私ね、失恋したよ。」

顔を涙で濡らし、苦しそうに言った。

「やっぱり先輩が好きなんだって。そりゃそうだよね!私なんか先輩みたいに美人でも優しくもないし!それに」

「A。」

息継ぎをしないで自己否定するAの名を呼び、涙でぐちゃぐちゃな顔を両手で包みこんだ。

「Aは俺の幼馴染で、親友で、可愛くて、異変があるとすぐに気づいて話を聞いてくれる、とても優しい女の子だよ。」

もう、すべて言ってしまおうか。言ってしまったらこの先、俺たちの関係が気まずくなるかもしれない。それでも伝えたかった。顔を包んでいた両手を背中へ回して、こちらへと抱き寄せた。

「俺ならAを泣かせやしない。傷つけさせない。俺が全部守るから…!」

声が震える。拒絶されるだろうか。俺の前から消えてしまうのだろうか。

「前に言ってたなるせの好きな人って、私…?」

Aの驚く声が聞こえた。俺が君のことを好きだなんて思っていなかったのだろう。静まり返る部屋に、いつしか聞いた鳴き声とは違うセミの鳴き声が聞こえた。

「__そうだよ、言わずにいてごめんね。伝えるのが怖かった。それに、Aが望んだ幸せを、応援したかった。」

抱きしめていた腕を解いてAを見ると、涙は止まり泣き跡が残っていた。あいつのことを想って泣いたと思うと苦しくなる。

「俺は、Aのことが好きです。このタイミングで言うのは卑怯だって分かってる。失恋したばかりだから、断られるのも目に見えている。」

「だから、これから俺の事を好きにさせるから。」

全部伝えるとAは分かりやすく顔を赤くして、綺麗な笑顔になった。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (23 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
40人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:作者一同 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2019年9月11日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。