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◇.
どうしたものかと、大きく溜息をついて遠くへ沈み行こうとしている夕陽を眺めている時だった。
部屋にスマホの呼び出し音が鳴り響いた。
正体は黒木のスマートフォンである。
「失礼。」
一言残し、部屋を退出する黒木。
すぐ戻って来るだろうとまた意識を違う場所へ飛ばそうとすれば、スマホを片手にまた黒木が戻って来る。
随分と速い黒木に全員が視線を集中させた。
「悪いな、七鬼と美門を借りる。」
それだけいい、またも去る黒木。
何の要件も知らされずに呼び出された2人は不思議そうにしながらも部屋を出て行った。
かと思えば、今度は若武がスマートフォンを見て、あっ、と声をあげる。
「やば、一個デザート出すの忘れてた。
悪りぃな、小塚手伝ってくれ。」
「ん、分かった。
上杉、アーヤ、ちょっと待っててね。」
勿論小塚は快く了承、そして2人は奥の部屋へと消えていく。
さっきまで7人がひしめき合っていたこの空間も、今は彩と上杉だけになり、先程までの賑やかさが嘘のように静寂が室内を包み込んだ。
さっきまで全く気にしていなかった秒針の規則正しい音も、外を歩いて行く子供の声も、やけに大きく鮮明に聞こえる。
妙な空間に僅かに緊張感を覚えた上杉は横目で彩を見る。
隣に居る彼女は全くこの空間を意識していないのか、のんびりとティーカップを両手で包み込み、ピーチティーを嗜んでいた。
コトン、とティーカップを置く彩。
鮮やかに赤味がかった茶色の液体が波を打つのも、彩が窓を見つめ、夕焼けを写す鱗雲に黄昏ている様子も、全ての景色が瞳に映り込む。
茜空を写す彼女の瞳は艶やかなオレンジを吸い込んでいた。
「…なぁ、気付いてんだろ?」
上杉の唐突な問いに、彩は一瞬雲を追う瞳を止める。
「何のこと?」
「プレゼント用意できてなかったこと。」
彩の視線は窓から外れ、手元の紅茶に移る。
細長い指の小さな小さな動作に目を奪われた。
「…そうだね。
その代わりに一生懸命私の食べたいものを察知して取ってくれてたことも、私の好きそうな紅茶を用意してくれたりブレンドしてくれたのも全部気づいてるかな。」
クスクスと口に手を当てて笑う彼女。
何も気づいてないようでいて、案外見ているところはどこか彩らしい。
窓から差し込むオレンジの光が彩の横顔を彩り、影を造る。
美しいの、一言だった。
◇.
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清霞(プロフ) - はるはるさん» はるちゃーん( ; ; )有難う、楽しんでもらえたみたいで良かったです!コメント有難う* (2019年1月29日 21時) (レス) id: 61be4c1b32 (このIDを非表示/違反報告)
はるはる(プロフ) - さやかちゃん、ダリアの花束を贈る。完結お疲れ様です。どのお話も好みで、とても面白かったよ。更新される度にワクワクしながら読んでいました。本当にお疲れ様-* (2019年1月27日 20時) (レス) id: 91ccc51c14 (このIDを非表示/違反報告)
清霞(プロフ) - Wings(心渚)さん» みなちゃんありがとう、更新はめちゃめちゃ遅いけどのんびり待ってくれてると嬉しいです* (2018年12月25日 19時) (レス) id: 61be4c1b32 (このIDを非表示/違反報告)
Wings(心渚)(プロフ) - 清霞さん» やっぱこのお話好きだわ笑頑張ってね、応援してます。 (2018年12月25日 18時) (レス) id: ce1217488b (このIDを非表示/違反報告)
清霞(プロフ) - 沙也加さん» わー、ありがとうございます( ; ; )やっぱりkzのわちゃわちゃはいいですよね…!もっとわちゃわちゃシリーズを書けるように頑張ります、閲覧にコメント有難うございました* (2018年12月8日 14時) (レス) id: 61be4c1b32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:清霞 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/somerina021/
作成日時:2018年10月8日 10時