27.副長さん ページ28
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そいつはパッパと身支度を済ませた。
綺麗に畳まれた着流し、布団。
俺は、その支度の音を聞きながら、また書類と向き合った。
Aと向き合う覚悟なんて、俺にゃなかった。
「副長さん、お邪魔しました」
土方さん、ではなかった。
確実な、彼女との距離だった。
「3日間お世話になりました」
「あぁ、気をつけて帰れよ」
目は合わせなかった、合わせられなかった。
俺の道案内ではなく、山崎の道案内が付いた。
髪は隠させたし、問題はねぇだろう。
・・・仕方ねぇだろ。
俺ァ人を斬ってきた、これからだってそうだ。
あんな女が、あんなにか弱くて儚い女が隣にいちゃいけねぇ。
違う、あんな女の、隣にいちゃいけねぇ。
3日間、できるだけ我慢した煙草に口をつけた。
いつも通りの味、匂い。
「こんなのの、どこを好きだってんだ」
煙草なんて、知らねぇお嬢様が。
男なんて、知らねぇ女が。
泣いていた姿が脳裏に刻み込まれる。
あいつが来て一日目もそうだ。
泣きそうなのを必死に我慢してまつ毛を濡らしてた。
でも、涙は零さなかったんだ。
俺に、他に好きな女がいるのがそんなに嫌かよ。
なんて思って、頭を振った。
他に好きな女って、なんだ。
それじゃあまるで、他以外に、つまり、Aに気があるみてぇじゃねぇか。
・・・違うな、俺だって惚れてんだ。
ミツバに似てる似てない関係なく、気があんだ。
でも、俺にゃあいつを幸せにできねぇ。
結局、これだ。
結局、刀を腰にかける俺は
人並みの幸せを人に与えることも人から得ることも許されない。
俺じゃない、違う、そう言い聞かせた。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時