12.敬語 ページ12
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「それは・・・すまなかった」
「いえいえ、私もまだまだ若く見えるようで良かったです」
口元に手を添えて、いたずらっ子のように笑う。
ふわりと漂う、特有の、ふわふわした雰囲気。
どう考えても芸能人にもいないような整った顔。
目の前で微笑むその人の顔に不覚にも、どきりとした。
はぁ、と、小さくため息がこぼれた。
行きますよ、とその人の隣について城の中に入る。
はい、と少し早歩きで着いてくるその人に歩調を合わせる。
「ありがとうございます、わざわざ・・・」
「・・・これも仕事ですんで」
「ふふ、土方さんって、敬語、苦手ですよね」
無理して使わないでくださいよ、と笑う。
どうにも、距離感がつかめねぇ。
さっき倒れかけたこの人を抱きとめた時の感覚がまだ残る。
香りも、温もりも、まとわりついてんだ。
変な感覚、妙な感じ。
この女の、どこか本心じゃない笑み。
どこか寂しそうな、憂いを含んだ笑み。
気にならねぇ、そう自分に暗示をかける。
「さすがに、身分の違いってもんが」
「ないですよ。ここに住んでる人達ならまだしも。
私は、身分が高いとか、そんなんじゃ、ないです」
そんなわけねぇだろう、そう言おうとしたが・・・
口元は笑ってるのに、真剣な、悲しそうなその瞳が俺の口を閉ざした。
「Aさん、って呼ぶからな」
「・・・ふふ、はい!土方さん!」
さっきまでの表情は消え、ぱぁっと、効果音がつきそうなくらいに顔が綻ぶ。
どこか小動物のようなAさんは、見ていて飽きない。
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作者名:あい | 作成日時:2021年1月19日 22時