無色な詩姫【イナオリ】第三章

〇もろい ページ8

いつも、色を見たかった。

色の映る世界を網膜に焼き付けたいって思ってた。


でも、実際色が少しずつだけど映り始めてからは自分がなんなのか分からなくなった。

いや、みんなが眩しすぎてついていけなかったんだ。



どうしてだろう。

今まで後ろ指を刺される時に出てくる黒いもの(負の感情)には慣れていた。何も感じなかったのに。



今はものすごく痛くて苦しい。

この時の感情ってなんて言うんだろう。



悔しい？怒り？それとも＿＿＿＿＿





そんな醜い思考は前半終了のホイッスルに断ち切られた。





『……終わったわね、あなたのサッカー人生』



役立たずね







頭の中でサッカーをやめた時の記憶が蘇ると、詩音は錯覚した。







＿＿＿＿＿嗚呼、終わっちゃった。







それと同時に自分の中で今までギリギリで保っていたものが崩れ落ちた音がした。




膝から地面に落ちて座って動かなくなる詩音にイナズマジャパンは駆け寄った。



まるで崩れ落ちた時の詩音は、操り人形の糸がプツリと切れたような、とても弱々しい姿だった。

必死に声をかけても何も答えずただただぼうっとしているだけ。
耳にシャッターを付けて、音を全て遮ってしまっているかのように、無反応だった。


イナズマジャパンの人達によってベンチに運ばれていく行動不能になってしまった詩音を見ていたタイ代表は、その光景を見ながら口角を上げて話していた。



「ふっ、もろいな」

「なんで他の奴らがあんな奴を払えなかったのかさっぱり分からねぇな」

「まだまだだ。命令を徹底的に遂行する。そのためにサッカーが出来なくなるような体を作ってやらないとな」

「後半が楽しみだぜ」

「主役が出てこないなら他の奴らから潰していけば一石二鳥だしな」



少年たちの脳裏に浮かぶのは彼らにとっての恩人の一言。









必ず橘詩音を再起不能にしろ

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