【承太郎】花に埋もれて亡くなりたい (ページ12)

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じゅういちページ12

Aが花京院とどこかへ行ったと聞き、あぁ、バレたなと思った。
見え見えな嘘をつくとは、俺らしくねぇな。

それに、あの水族館にジンベエザメが来たと聞いたときデートに行くんならこんなとこだろうなと思ったのも俺らしくねぇ。周りの頭に花ばっか咲いてるヤローと同じ思考じゃあねぇか。

｢承太郎！｣

廊下を歩いていると、普段使わない階段からAが顔を出した。どっから出てきてんだコイツは。

｢ねぇ、花京院くんに聞いてないってホントなの？｣

あぁ…やっぱりその質問かと天を仰げば、俺が目を逸らすのは珍しいと思ったのか、Aが察したように言う。

｢ふふ、すごく嬉しい。私の独りよがりなのに…ありがとう、承太郎。｣

学校にしちゃ珍しい暖かい色の電灯に照らされた髪はしっとりと濡れているようにも見え、白い肌は簡単に赤く染められていた。その姿は綺麗と言えばいいのだが、寂しそうに微笑む顔と声のかすれ具合からして、どちらかというと儚さを感じた。

｢おい、独りよがりなんて言うんじゃあねぇ｣

Aが言ったその言葉が気に入らなかった俺は怒気を含んだ声を出そうとした。
だが、肩をどんなに弱く押しても倒れてしまいそうで、少しでも威圧すれば泣き出してしまいそうなAの様子に怖気付いたのか、俺の喉から出た声は笑っちまいそうなぐらい情けなかった。

｢少なくとも、俺がてめぇを誘ったってことはてめぇとあの水族館に行きたいと思ったからだ。俺が他人の独りよがりに情けで付き合うと思ってんのか？｣

喉に力をいれ、少しずつ少しずつ声に威圧を含める。それでも情けない声には変わりなかった。

｢……そうだね、承太郎はそんな人じゃないよね。｣

ふふ、と笑うA。

｢ごめんね、変なこと言っちゃって。承太郎が私のこと考えてくれてたなんて…全然思ってなかったから夢なんじゃないかって思って……｣

｢……夢じゃあねぇぜ。｣

そう言って俺からAの手を取れば、目を丸くする。

｢俺にここまでさせたんだ。ちゃんと嫌いにできるんだろうな？｣

顔を除けば、俺の影がAにかかる。
Aの細い体はすっぽりと影に覆われた。

｢ふふ、うん。きっと大嫌いになっちゃうかもね。｣

くすくすと笑うAの手を引き、廊下を歩く。
窓から見える外はもう真っ暗で、制服ではなくジャージで帰る生徒がちらほら見えた。

｢……嫌われたくないなぁ｣

ポツリと呟いたその声は、野球部の大声にかき消された。